クリスマス・テール

 むかしむかしあるところに黒雪姫(黒井 姫)というそれはもうたいそう美しく白いお姫様がおりました。
「白いのに黒雪姫!?」
 そうツッコミを入れるのはこの国のお妃様(ティル・オレンジ)でした。
 お妃様は毎日鏡に向かって言いました。
「鏡よ鏡よ鏡さん。なんで白いのに黒雪姫なのぉ!?」
 鏡(KIRA)は答えました。
「それは黒雪姫のキャストの名前のせいだZE☆ ていうか俺が鏡の役なんだZE!?」
 ナレーションの耳にはそんなもの届きません。
 お妃様は言いました。
「そう……。じゃあ殺すしかないねぇ」
「なZE!?」
 鏡のツッコミは聞いてません。
「えーと、じゃあ……いでよ!」
 お妃様は魔法陣を描くと、そこから何者かを呼び出しました。お妃様(の中の人)は呪法で魔物が呼び出せるのです。って今回呼び出したのは魔物じゃありませんが。
「お呼びですか、お妃様?」
 そこから現れたのは、『グローリ・ワーカ』本編の職業もそのまんま狩人(アルト・クリーム)な人でした。
「狩人よ! 森へ行って黒雪姫を殺してしまいなさい!」
「えー? この歳で、殺人犯になるのはちょっと……」
 狩人は冷静でした。
「この歳ならまだ院送りで済むから大丈夫だよぉ。少年法で護ってくれるよー」
 お妃様は悪知恵が働く人のようです。
「あぁ、それもそうですね。じゃ、さっそく行ってきます!」
 説得されちゃう狩人でした。
 狩人はお妃様の部屋を飛び出して、黒雪姫を探し回ります。
「黒雪姫様ー! ちょっと森へお散歩でも行きましょうか」
「……狩人?」
 なぜか城の倉庫にいた黒雪姫が、狩人のほうを振り向きました。――手には倉庫に置かれていた槍を持って……。
「あーっはっはっは!! 狩人が私に話しかけるなんて100年早いんだよ! 身分を弁えなさいな!」
 黒雪姫は黒姫になってしまいましたとさ。――黒雪姫(の中の人)は細長いものを持つと人格が変わってしまう困った体質なのでした。
「面倒なことになった気がするのですが……。あー……、川野辺くん、任せました」
「え!? 僕!?」
 狩人はそこら辺にいた兵士(川野辺 葉乃)に事態の収拾を任せましたとさ。
「一応、『僕の生存日記』の主人公なのに……この扱い……」
「黒雪姫様が好きなんですよね?」
「ああああああっ! こんなところでそんな話を……っ!! わ、わかりましたー! 僕がなんとかしますぅ!」
「お願いします☆」
 狩人に上手く丸め込まれ、兵士は黒姫を元に戻す役目を負うことになりました。
「うぅ……。でも、いったいどうすれば……。あの槍をなんとか奪えればいいんだけど……」
「お困りなら、この魔女っ子サンタ・マニュアちゃんにお任せを〜!」
 いきなりどこから現れたのか!? 魔女っ子サンタ(マニュア・ホワイト)が現れました。
「つーかさー。名前的に私が白雪姫やったほうがいいと思わん? それに『グローリ・ワーカ』の主人公だしさぁ」
「そんなことはどうでもいいけど、魔女っ子サンタってなに!? 何役なの!? これまた無理やりクリスマスに絡めたな!」
「私はシンデレラをクリスマスパーティーに連れて行くためにやってまいりました〜!」
「あぁ、もう……どこからつっこんでいいのやら……」
 兵士は頭を抱えています。
「ともかく、シンデレラの願いはあの黒雪姫を止めることなんだね!?」
「シンデレラじゃねぇぇぇぇ!!!!」
「魔女っ子サンタにお任せっ☆ ストップ ディサピアランス ディストラクション!!」
 どっぐおぉぉぉぉぉぉん!!!!
 倉庫周辺一帯が壊滅しましたとさ。
「ふー。破壊系の呪法の、まぁ中級ってとこかなー」
 魔女っ子サンタはいい汗を掻いています。
「なにを呪法使って吹っ飛ばしてんですかぁぁ!? 槍を奪い取ればいいだけなのに!」
「まぁ、ほら。手から放しちゃえば一緒じゃん?」
「一緒じゃないですよ! 黒雪姫さん! 大丈夫!?」
 兵士は、黒焦げになった黒雪姫のところへ慌てて駆け寄り、抱え起こしました。
「うーん……。あ、川野辺くん〜。どうかしたんですか〜?」
 いつもどおりの黒雪姫に戻ったようです。
「……ていうか、呪法まともにくらってもピンピンしてるとか……」
 魔女っ子サンタは目が点です。
 一連の流れを静観していた狩人が、ぽつりと言いました。
「いや、無理っす。これでも死なない黒雪姫様をどうやって殺せというのですか?」
 狩人は逃げ出しました。
「ところで、黒雪姫さん。なんで倉庫なんかに?」
 兵士が尋ねました。
 黒雪姫はにっこりと笑うと、
「今夜、隣国のお城でクリスマスパーティーが開かれるので、その支度をしようかと思ったんです〜」
「あぁ、そう……。でも、倉庫には危険なものしかないからね。支度するならメイドに言ってください」
 的確なツッコミでした。
「それもそうですね〜。そうします〜。川野辺くん、ありがとうございます〜」
 黒雪姫は頭を深く下げてお礼を言うと、部屋へと戻っていきました。
「…………いいの? クリスマスパーティー行かせて? 間違いなく隣国の王子様と結婚ルートだよ?」
 魔女っ子サンタが兵士に向かって言うと、兵士は黒雪姫が去ったほうを見つめたまま答えました。
「そりゃあ……僕だって、嫌だけど……。でも、僕は一介の兵士。姫と結婚なんてとてもできませんよ」
「……くっ……。なんて切ない……。わかった! この魔女っ子サンタ様がどうにかしてあげようじゃないか!」
 魔女っ子サンタが涙を拭いながら言いました。
「いや、遠慮します。魔女っ子サンタさん、なにするかわからないし」
 あっさりと断る兵士でした。
「ひ、ひどい! いいから! カボチャとネズミ何匹か集めてきなさい!」
「えぇぇ?」
「いいから早く集めてこいやー!」
「はいっ!」
 こうして、カボチャとネズミが数匹集まりました。
「ちゅー……。って、ちょっと待ってくれ……。俺がネズミだと……?」
「ネズミだとぉ?」
 怖い顔が2つ。ネズミ(PIKA、神成 躍人)が魔女っ子サンタを睨んでいます。
「ひいぃぃ〜!!!! ちょっと! ここの城には強面のネズミしかいないのか!?」
「そんなこと言われても……」
「いったい、俺たちになにをするというのだ?」
 ネズミ2(神成 躍人)が2人をさらに鋭く睨みつけました。
「「ひいぃ!」」
 2人は震え上がりました。
「す、すいません! 黒雪姫さんが隣国の王子様と結婚しちゃうかもしれなくて、それで、僕、それを止めたくて――!」
 兵士が頭を下げて必死に弁解しました。
 すると、ネズミたちの動きが止まり、そして次の瞬間には――、
「おぉぉ〜〜〜〜! なんて泣ける話なんだぁ〜〜〜〜〜〜!! 感動した!!!! 俺に手伝えることならなんでも言ってくれぇ〜〜〜〜!!」
 ネズミ1(PIKA)は号泣しています。
 ネズミ2も涙を拭って、
「了承した――! 俺たちも力になろうではないか!」
 あっさりと協力してくれるのでした。
「そ、そうか。よかった」
 魔女っ子サンタは怯えながらもそう答えて、カボチャとネズミの存在を再び確認しました。
 そして、大きく息を吸い込み――、
「ビビデバビデブゥッ!!!! しかし、『グローリ・ワーカ』にも普通に変身の呪法はあるんだが!」
 力強く呪文を唱えました。
 すると、カボチャは馬車に、ネズミは馬と御者に代わりました。
「おぉ! すごい!」
 兵士、今度は感動しています。
「どんなもんよ!」
 魔女っ子サンタも得意そうです。
「――で、これをどうするんですか?」
 とうぜんの疑問。
 一瞬、魔女っ子サンタは固まりました。が、すぐに気を取り直して。
「こ、ここに、さっきの黒雪姫を連れてきなさい!」
「え? なんで? それじゃあそのまま隣国の王子様と――」
「いいから早く連れてこいやー!」
「は、はいっ!」
 そうして、兵士に連れてこられた黒雪姫――。
「えーっと……なんですかぁ〜?」
「はい、黒雪姫、これに乗って!」
「え、え〜? はい〜」
「乗っちゃうんかよ!」
「よし。ハイヨー、シルバー! そのままどっか森に連れて行きなさい!」
「ヒヒーン!」
 馬になったネズミ1は一声鳴くと、そのまま森のほうへ消えていきました。
「ふぅ……。これでクリスマスパーティーには出れないでしょう」
 魔女っ子サンタ、いい笑顔です。
「うん……やっと森へと話が進んだね……。じゃなくて! 森に連れてってどうするの!? 無事に帰ってこれるの!?」
 兵士が青い顔をして尋ねます。
 ――間――。
「…………。……ま、森の小人さんたちが拾ってくれるよ、きっと、たぶん!」
「なにその曖昧な答えー!?」
「じゃあ、私は本当のシンデレラを探す旅に出るね!」
「サンタさんの仕事は子供たちにプレゼントを配ることだろ――!!??」
 兵士のツッコミが城全体に響き渡りましたとさ。

 ――さて、馬車に乗せられた黒雪姫はというと。
「えーと……。ここはどこでしょ〜?」
 上手い具合に森の小人たちのお家へと辿り着いていました。
 家の中に入ると、小さなテーブルの上にはたくさんのご馳走が用意してあります。
「――…………。あぁ! ここがクリスマスパーティー会場ですね〜」
 ものすごいボケっぷりでした。
「でもまだ他の参加者がいませんね〜……。そうだ。他の方が来るまでベッドをお借りしましょ〜」
 いいこと思いついたとばかりに手を合わせ、黒雪姫は寝室へ行くと眠り始めましたとさ。
 それからしばらくして――。
「ただいまーって誰もいないっちゅーねん」
「……ストーム。なに1人ボケ&ツッコミやってんだ」
「まぁともかくただいま」
「しかし、この家も男ばっかりでむさいよなぁ。もっとかわいい女の子でもいればいいのになぁ」
「まぁまぁ。また絵でも描いて飾っておくからさ」
「たぶん、絵とかじゃ納得しないんですよ……」
「ピュウピュウ!」
 小人たち(ストーム・カーキー、ニール・クラベット、千羽 緋路、今池 輝也、太一、大輝、ピュウ)が帰ってきました。
 そして、テーブルの上を見て愕然としました。
「こ、これは――!!」
「どうした、ストーム!?」
 小人1、ストーム(ストーム・カーキー)が青い顔をして言いました。
「――家を出たときとまったく変わっていない!」
 ガタガタガタッ!
 みんなが一斉にこけました。
「そりゃ変わってたら泥棒でも入ったってことになるだろ!?」
 小人2、ニール(ニール・クラベット)がストームにつっこみます。
「まぁご馳走の支度してそのまま出かける俺たちもどうなんだろうって話なんだが」
 小人3、緋路(千羽 緋路)のほうが的確なつっこみな気がしました。
「仕方ないさ。今夜はクリスマス・イブ。みんなでパーティーをするっていっても、夜帰ってきてから支度する余裕なんかないんだから」
「だから、朝から頑張ったんだよ。主に俺が!」
 小人5、太一(太一)が言うと、それに続けて小人6、大輝(大輝)が涙を流しながら訴えました。大輝は苦労人のようです。
 と、そのとき!
「ピュウピュウ!」
 小人7、ピュウ(ピュウ)が鳴き声を上げました。どうやら寝室からのようです。
「どうした? ピュウ」
 ニールが行くと、そこには――!
「こ、これは……!」
「ピュウ!」
 ピュウが訴える先――1つのベッドの上、そこにはなんと美しいお姫様が眠っているじゃありませんか。
「かわいい娘キター!」
 小人4、輝也(今池 輝也)が目を輝かせました。
 そして、急いで姫の元へ駆け寄ると、
「お姫様の眠りを覚ますのは、王子様のキスと決まっているんだ」
 そう言って、姫にキスをしようと――、
「って許せるか――――!!!!」
 そう叫び声を上げて輝也を突き飛ばしたのは、なんと兵士でした。
「兵士がどっから現れたんだ!?」
 ニールがつっこみます。
「そ、そこは気にしたら負けだよ! ……本当は出番じゃないけど……」
「おぉぉ!? かわいいコがいる!?」
 今度声を上げたのは緋路でした。
「ま、また黒雪姫を狙う小人が!? 黒雪姫は渡さな――」
 兵士は黒雪姫を庇うように前に立ちました。
 しかし、そんなことには目もくれず、
「え? 城の兵士? なんでこんなとこに? もう一緒に住んじゃおうぜ!」
 そう言って緋路は兵士の手を取ったのです。
「――――は?」
「アンバランスな鎧がまたかわいいな! そんな格好しなくても俺が守って――」
「ちょ……。うぜぇ!」
 兵士は緋路を突き飛ばしました。
 と、そのとき――。
「ふぁあ〜……。なんか大きな音がぁ〜……? あれ〜……? 皆さん、おはようございます〜」
 黒雪姫が目を覚ましました。
 兵士ははっとして、
「ぼ、僕、出番じゃないから戻るね!」
 そう言うと、舞台袖へと逃げていきました。
「え〜と……? あ、はじめまして〜。黒雪姫と申します〜。で、クリスマスパーティーはいつからですか〜?」
「え? クリスマスパーティーはもうちょっとしたらやるけどさ……」
 黒雪姫の質問に、ニールがしどろもどろになりながら答えました。
「なんでうちのクリスマスパーティーに参加すること前提になってんだよ!?」
 とつっこんだのは、後からやって来た大輝でした。
「えーと、黒雪姫だっけ? 俺は小人6の大輝で、ここは小人の家。あんたはここになにしに来たんだ?」
 大輝が尋ねると、黒雪姫は間を置いてから首を傾げました。
「……あれぇ〜? 隣国のお城じゃないんですかぁ〜……? そこのクリスマスパーティーに行くつもりだったのですが〜」
「どー見てもここはお城じゃねーだろぉっ!!!!」
 つっこまずにはいられない大輝でした。
「まーまー。かわいいお姫様がうちのパーティーに参加してくれるってんなら大歓迎だろ?」
 いつの間にか復活した輝也がそんなことを言い出します。
「でも、お姫様は隣国のお城で開催されるクリスマスパーティーに行かなきゃいけないんだよね? うちのクリスマスパーティーに参加させたって意味ないだろ」
 輝也にそう返すのは、また後からやって来た太一でした。
「でも、俺も、かわいいお姫様が一緒にパーティーするってんなら大歓迎だゼ!」
 いつの間にかストームもやって来て、そんなことを言います。
「えーと……で、どうすんだ?」
 まとまらない意見に、ニールが困ったようにみんなに尋ねます。
 太一は黒雪姫のほうを振り返ると、
「お姫様はどうしたいんだい?」
 黒雪姫はしばらく頭を傾げていましたが、決めたように答えました。
「そうですね〜……。ここのクリスマスパーティーも面白そうなので、ぜひ一緒にやりたいです〜。いいですかぁ?」
 その言葉を聴いて、小人たちは顔を見合わせて頷きました。
「うん。じゃあ、いいよ。ようこそ小人のクリスマスパーティーへ!」

 そのころ。隣国のとある一軒家。
 そこでは、1人の女の子が継母たちにこき使われて暮らしていました。
「シンデレラ! 今夜はお城のパーティーだよ! 早く、俺たちが着ていくドレスを出しなさい! ほっほっほ」
 継母(陽二)がシンデレラ(アリス・ヘイズル)に向かって怒鳴りつけます。
 シンデレラは汗だくになって言いました。
「……継母がおかまってどーなの……?」
「シンデレラ! 無駄口を叩かない! 俺はなに着ても似合うからいいんだよー☆」
「そうか……?」
 そこへ、義姉(明子)も現れていいます。
「あぁ、もうっ! シンデレラ! お城のクリスマスパーティーまで時間がないのよ! 早く支度を手伝ってちょうだい!」
 さらに義妹(シリア・ブラック)も現れました。
「シンデレラお義姉ちゃん……。その……頑張って!」
 なぜかシンデレラを応援しています。
「うぅ……。義妹ちゃん、いい娘……。ていうか、ホワさんが裏切らなければいい娘なのに……」
「とりあえず『グローリ・ワーカ』本編の話は置いておいてください」
 本編最新話はとんでもないところで話が終わっていましたとさ。
「さぁ! さっさと支度するよー! 明子ちゃん、シリアちゃん、早く早くー」
「はい。お母様」
「じゃあ、お義姉ちゃん。頑張ってね!」
「はいはーい」
 そうしてしばらくすると、継母と義姉、義妹はお城のクリスマスパーティーへと出かけていきました。
 シンデレラはその様子を窓から眺めて、ふぅっとため息を吐きました。
「血の繋がっていない家族は、お城のクリスマスパーティー……。それに比べて、私は1人ボロを着てお家で留守番……。私、なんてかわいそうなのかしら」
 まるで悲劇のヒロインです。
 ――と、そこへ!
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 魔女っ子サンタです☆」
「誰も呼んでないよ!」
 とつじょ現れた魔女っ子サンタに、おもわずつっこむシンデレラでした。
「いやー探しちゃったよ、シンデレラ。間違えて隣の国のお城まで行っちゃったじゃないか」
「知らないし! え、えーっと、魔女っ子サンタさん……? いったいあなたは何者なの……?」
 シンデレラの問いに、魔女っ子サンタは咳払いを1つしてから答えました。
「私はっ、魔女っ子サンタ! 良い子のみんなの願いを叶えるためにやって来ました〜! さぁさぁシンデレラ、君の願いはなんだい?」
「願い……?」
 魔女っ子サンタにとつぜんそんなことを言われ、少しの間、頭を捻って考えていたシンデレラでしたが、ふと思いついたように言いました。
「この世で1番お金持ちになりたいです」
「うーわー。そんな夢のない願いはイヤだなぁ」
「そんなことないでしょ! 夢満載じゃないの!」
「いやいやいやいや、ここはお城のクリスマスパーティーに行きたいって言う場面でしょ!」
 魔女っ子サンタが慌てて言うと、また少し間があり、そして今度シンデレラはこう言いました。
「じゃあ、お継母様をまずパーティーの最中にちょっとした事故で亡くして、とりあえず遺産を受け取って、葬式に責任を感じた王子様がやって来たところを見初められて、玉の輿に乗りたいです」
「ちょ、生々しくグロい! さらに夢がなくなったよ!?」
「そんなことないでしょ! 夢満載じゃないの! 王子様に見初められる辺りが」
「そこだけじゃん! しかも葬式でとかどーなのよ!?」
 魔女っ子サンタがさらにつっこみます。
「ちっ……。魔女っ子サンタさん、わがままね」
「どっちが!?」
 シンデレラ、なんだか心が黒いです。
「あー。もうとにかく、カボチャとネズミ数匹捕まえてきなさいな!」
 魔女っ子サンタがシンデレラに言います。
「願いを叶えに来たくせに、命令なんて……」
「このシンデレラかわいくねー!」
 シンデレラの心は荒んでいるようです。
「いいから早く集めてこいやー!」
「ちっ……」
 こうして、カボチャとネズミが数匹集まりました。
「ちゅー……」
「またネズミだとぉ?」
 怖い顔が2つ。ネズミが魔女っ子サンタを睨んでいます。
「ひいぃぃ〜!!!! ちょっと! なんだか見覚えのある強面のネズミなんですが!?」
「気のせいじゃない?」
「いったい、俺たちになにをするというのだ?」
 ネズミ2が2人をさらに鋭く睨みつけました。
「ひいぃ!」
 魔女っ子サンタは震え上がりました。
「なんかクリスマスパーティーに連れていってくれるらしいの」
 シンデレラがそう答えました。
 すると、ネズミたちの動きが止まり、そして次の瞬間には――、
「おぉぉ〜〜〜〜! なんて泣ける話なんだぁ〜〜〜〜〜〜!! 感動した!!!! 俺に手伝えることならなんでも言ってくれぇ〜〜〜〜!!」
 ネズミ1は号泣しています。
 ネズミ2も涙を拭って、
「了承した――! 俺たちも力になろうではないか!」
 あっさりと協力してくれるのでした。
「え!? 今、どこら辺で感動した!?」
 魔女っ子サンタはつっこみつつも、カボチャとネズミの存在を再び確認しました。
 そして、大きく息を吸い込み――、
「ビビデバビ――!!!!」
 力強く呪文を唱え始めました。
 すると――。
「「「――え?」」」

「鏡よ鏡よ鏡さん。なんで白いのに黒雪姫なのはどうなったのぉ!?」
 お妃様の言葉に、鏡は答えました。
「黒雪姫は森で生きてるんだZE☆ ていうか狩人は逃げたんだZE!」
 お妃様は言いました。
「そう……。まぁ狩人は置いといて。じゃあ殺すしかないねぇ」
「今度はどうするんだZE!?」
 お妃様も鏡の話は聞いてません。
「えーと、じゃあ……いでよ!」
 お妃様は魔法陣を描くと、そこから何者かを呼び出しました。
「――デブゥッ!!!!」
 そこから現れたのは、魔女っ子サンタでした。
「魔女っ子サンタよ! ――……ねぇ、今の『デブゥ』ってなに? ねぇ?」
「ひいぃ! ティルちゃん、怖い! 別にデブなんて言ってないよ、むしろティルちゃんは細いじゃないか! ただの呪文の途中だったんだよー!」
 魔女っ子サンタは涙目です。
「えー……魔女っ子サンタよ! 森へ行って黒雪姫を殺してしまいなさい!」
「えー? 魔女っ子サンタは良い子のみんなの願いを叶える存在なので、良い子じゃないお妃様の願いを叶えるのはちょっと……」
 魔女っ子サンタは苦笑いを浮かべました。
「は? いいから行きなさい」
「は、はいぃ!」
 脅迫されちゃう魔女っ子サンタでした。

「――ねぇ……。魔女っ子サンタ、いなくなっちゃったんだけど……」
 シンデレラがネズミのほうを睨みつけるように言います。
「いや、俺に言われても困るのだが……」
 ネズミたちも困惑しています。
「どうすればいいのー!?」
 シンデレラはキレかけています。
「シンデレラ、もうちょっと落ち着けよ……」
 ネズミ1がため息を吐くと、シンデレラが恐ろしい形相になって言いました。
「もうパーティーまでに時間がないっていうのにどう落ち着けと言うのかな、かな……?」
「シ、シンデレラ……」
「俺たちより怖いんじゃなかろうか……」
 強面のネズミたちが怯えています。
「あー! なにかいい方法はないの!?」
 暴れるシンデレラを見て、ネズミたちは思いました。このままでは殺される! と――。
「そ、そうだ。ちょっといいドレスでもないか、見てこようじゃないか……」
「そ、そうだな。とりあえずめかしこんで、お城まで行けばなんとかなるだろう!」
 そう言うと、ネズミたちはその場から逃げるように家の中を探し始めました。
「ちょっと、急ぎでね!」
 そんなシンデレラはさながら女王様のようでした……。
 しばらくして、ネズミはなにか着るものを手に戻ってきました。
「えーっと……なにこれ?」
「まともなドレスがそれしかなかったのだ! と、とにかく着るんだ!」
 ネズミ2に言われ、シンデレラは服を着替えます。
「――……。って、なにこれ――――――――っ!!??」
 シンデレラが叫び声を上げました。
 ネズミたちが慌てて駆けつけると、そこにいたのは――バニーガールの格好をしたシンデレラでした……。しかし、ガラスの靴だけはしっかりと履いています。
「こ、これは……」
「な、なんとハレンチな……」
 強面のネズミたちが鼻血を流しています。
「ちょっと、どーゆーことぉっ!? クリスマスとバニーガールってなんの関係もないじゃない!」
「ど、どうやら、アリス→不思議の国→ウサギ→バニーガールとなったらしいのだ」
 ネズミ2が(作者の気持ちを)言い訳しました。
「納得できるわけないでしょお――――!?」
「だ、だが、ちょっと落ち着いて聞け……。普通のドレスを着るよりも、少し変わった格好をしたほうが、王子様の目にも止まるってもんだろ……。きっと結果オーライに違いない……」
 ネズミ1が説得を始めました。
 シンデレラは少し考えてから、ため息を吐いて言いました。
「そ、そうね……。まぁ他にドレスがないんじゃ仕方ないし――バニーガールの衣装があったのも謎だけど――これで行くわ……」
 肩を落として、諦めたようです。
「「よ、良かった……」」
 ネズミたちはほっとしながらも思いました。まぁ目に止まったとしてもそれはただ、変な人が紛れ込んでる! って意味だろうな。と……。
「と、とにかく。シンデレラ……」
「俺たちがお城までお供しようではないか」
 ネズミたちはそう言うと、2匹でシンデレラを担いで城まで連れて行きましたとさ。

 お城ではクリスマスパーティーの開催時刻となりました。
「王子様。時間です」
 従者(光助)が王子(ヤン・サンド)に声をかけます。
 王子は振り返り、
「そうか。今夜のパーティーは俺にとっても大事なパーティー。しっかりと顔を出さないとな」
 そう言って、部屋を出ました。
 パーティーが行われる広間に入ると、王子は挨拶を始めました。
「皆様、我が城主催の、100回目のクリスマスパーティーへようこそいらっしゃいました。今宵は私としましても特別な夜になると思っておりますので、ぜひ皆様も存分に楽しんでいってください。では。メリークリスマス!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
 こうして、お城のクリスマスパーティーが始まりました。
「はぁ。長身で文武両道でお金もある王子様……。別にモテる雰囲気がなぜかしないけども、最高じゃないの! さぁおまえたち! 王子様を本気で落としにかかるんだよ!」
 けっこうノリノリな継母の目が輝きました。
 それと対照的に義姉の目はうっとりしていました。
「お母様……」
「姉!? どうしたの!? さっそく王子様へ恋に落ちたのかな!?」
「私……王子様の隣にいた従者に一目惚れしてしまいました。キャッ☆」
「そっち!?」
 義姉はもう恋する乙女でした。
「従者と結婚したって、この国は手に入らないんだよ! まぁ城で働いてるんだから給料は良さそうだけどさ……」
「お母様がニートの現在よりはぜんぜんマシですよ」
 義妹がきつーいツッコミをします。
「というか、お母様はこの国が欲しいんですよね? いったいこの国を手に入れて、なにをしようと考えているのかしら?」
 義妹が言うと、継母はニヤリと笑いました。
「ふっふっふー。まぁ、それは手に入れてからのお楽しみでしょ!」
 その笑顔を見て、義妹は、絶対ろくなことにはならないな。と悟りました。
 と、そのときです。
 バターン!
 大きな音を立てて、玄関の扉が開きました。
 そこには――、
「シンデレラ! ただいま、参・上☆」
 バニーガールの格好をしたシンデレラが、2匹の強面のネズミと共に立っていました。
「なに!? シンデレラ!?」
「え?」
「シンデレラお義姉ちゃん!?」
「ていうか、なんて格好してるのあの娘は……」
 バニーガールって格好をしています。
 継母はシンデレラに近付いて言いました。
「俺のバニーガールの衣装ー!」
「「「「おまえのかよ!」」」」
 周囲が一斉につっこみました。
「だって、俺、似合うじゃん! けっこうかわいいしさ!」
 継母はぶっ飛んでいます。
 王子はその様子を遠くから眺めていました。
「あの……王子……。なんですかね、あれ……。追い出しますか?」
 従者が王子に尋ねると、王子は――、
「いや、むしろここに連れてこい。バニーガール超かわいい」
「王子!? お気を確かに!?」
 王子に命令されたら断るわけにもいきません。従者はシンデレラの下へ行くと言いました。
「あ、あの、ウサギ娘さん……。王子様がお話したいそうなので、ちょっとお越しいただけますか……?」
 …………。
 とつぜん、周囲に静寂が訪れました。
 次の瞬間――。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
「王子様って変態ですかね?」
「俺のほうがバニー似合うからー!」
「お母様、さすがにそれはちょっと……」
「よ、良かったな……。シンデレラ……」
「え、えっとぉ……?」
 シンデレラも困惑しています。
「と、とにかく。こちらへどうぞ」
 従者がシンデレラを王子の下へと連れて行きました。
 王子はシンデレラを見ると、緊張しながら自己紹介を始めました。
「え、えっと……。バニーなお嬢さん、はじめまして。俺はこの国の王子です」
「えーっと、シンデレラです。はじめまして……」
 シンデレラは少し恥ずかしくなり、顔を赤らめながら頭を下げました。
「さっそく結婚しましょう!」
 王子が暴走を始めました。
「王子ィ!!?? お気を確かにぃぃ!!」
「シンデレラと結婚んん!!??」
 と、そこへいきなり継母が乱入しました。
「シンデレラとだってー!? まぁシンデレラでも我が家にお金は入ってくるけど、どうせなら我が娘たちに結婚させたいし……そもそも俺が国に口出しできなきゃ意味もないし……。えぇい! もう、シンデレラ、家に帰るよ!」
「え? えぇ??」
 乱入した継母によって、シンデレラは強制的に帰還することとなりました。
「あ、シ、シンデレラ! 待ってください!」
 王子が止めに入りましたが遅く、シンデレラは継母に連れて行かれてしまいました。
 ――ただ、そこに片方のガラスの靴を落として……。
「……ガラスの靴……。これは、あのシンデレラが履いていたものだな。よし、この靴を手がかりに、町からシンデレラを探し出すぞ! 今すぐにだ!」
 王子の無茶振りが始まりました。
「今すぐにですか!?」
 従者は真っ青です。
「そうだ。今すぐだ! なぜならば、クリスマスの日に伝説の樹の下での女の子から告白されると幸せになれるという伝説があるんだ!」
「ちょ……! それ、ぜんぜん物語違いますから!」
「とにかく、ガラスの靴を持て! シンデレラを探しに行くぞ!」
「え、は、はぁ……。つーか、ガラスの靴なくても顔見てわからないものなのだろうか……」
 王子の暴走に、従者の胃痛が増すのでした。

「じゃあ、乾杯! メリークリスマス!」
「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」
 小人の家・イン・森でも、クリスマスパーティーが始まっていました。
「いやー。それにしても、本当に黒雪姫はかわいいね。ねぇ、この後ちょっとデートしない?」
「え? デートですかぁ?」
 輝也が黒雪姫をナンパしています。
「ずりーぞ! 俺も連れてけ! むしろ俺が連れてく!」
 横から割って入るのはストームです。
「はぁ……。どうせあいつら後片付けしないで行くんだろうな……。全部片付けすんの俺なんだろ……」
 軽くお酒の入った大輝は暗い笑いを浮かべています。
「おいこら、未成年に酒飲ませたの誰だよ」
「そもそも成人してるの太一さんだけだろう……。用意しなきゃいい気がするんだ」
 太一の言葉にツッコミを入れるのは緋路です。
「まぁ細けぇこたぁいいんだよ!!」
「ニールくん。おまえも酒飲んだな?」
「ピュウピュウ!」
「お。ピュウなら酒飲めるかなー」
「太一さん。動物(?)に酒飲ませるのはどうかと。ていうか太一さんも実は酔ってる?」
 緋路はツッコミ要員になったようです。
 と、そこへ――。
 コンコン。
 ドアが叩かれました。
「誰だ!?」
 ストームが扉に向かって声をかけました。すると――。
「お母さんですよ」
「誰だ――――!?」
 さらにつっこみます。
「この家にお母さんはいねぇよ!」
「7匹の子ヤギ?」
 ニールも緋路もつっこみます。
「ちっ。しょうがない。魔女っ子サンタが良い子のみんなにクリスマスプレゼントを届けに来たよー!」
「「「「「わーい。サンタさーん!」」」」」
 あっさり扉が開かれました。
「みんな酔ってる!?」
『僕の生存日記』では変態の緋路が、完全にツッコミキャラになっています。まぁ兵士(の中の人)がいなければマトモな人なのでしょう。
「ホゥホゥホゥ。メリークリスマス! 魔女っ子サンタがプレゼントを持ってきたよー♪ まずは黒雪姫!」
「はい〜?」
 魔女っ子サンタは黒雪姫に小さなプレゼントの箱を渡しました。
「さぁ! 今すぐ開けるのだ!」
「ラッピングする必要はあったのか?」
 緋路はあいかわらずつっこみます。
 黒雪姫がプレゼントを開けると、中からリンゴが出てきました。
「……これがプレゼントか?」
 ストームがいぶかし気にリンゴを手にとって眺めました。
「こらこらこら。それは黒雪姫へのプレゼントなんだから! ほら、黒雪姫、食べて!」
「俺らにもプレゼントよこせよー!」
 ニールが言うと、魔女っ子サンタは顔を真っ赤にして、
「ニ、ニールには、また後で……その……プレゼント、するよ……!」
「え?」
 なんというラブコメでしょうか。
「ナレーションうっさい!!」
「えーとぉ……。じゃあ、リンゴ、ありがたくいただきますね〜」
「あ、あぁ、どーぞどーぞっ!」
 黒雪姫がリンゴを一口かじりました。
「――…………」
 コトン……。
 黒雪姫の手からリンゴが転げ落ち、黒雪姫はその場に倒れてしまいました。
「「「「「「黒雪姫!」」」」」」
「――……! おいこら、魔女っ子サンタ! ――って、いねぇ!!」
 いつの間にやら魔女っ子サンタの姿はありませんでした。
 その場に残ったのは、黒雪姫を失った悲しみだけでした……。
「どどどどどどーする!?」
 真っ青になった大輝が誰に尋ねるでもなく言います。
「うーん。とにかく、埋めちゃえばいいんじゃないか?」
 あっさりととんでもない提案をするのは緋路です。
「そんなっ!」
「だから、お姫様を目覚めさせるのは王子様のキスだと――」
「王子様じゃなくて小人だろおまえ――!!」
 輝也の言葉に、おもわず舞台袖からつっこんでしまう兵士でした。
 と、そこへ――。
 コンコン。
 ドアが叩かれました。
「誰だ!?」
 ストームが扉に向かって声をかけました。すると――。
「王子ですが」
「誰だ――――!?」
 さらにつっこみます。
「だから王子です! こちらにシンデレラはいらっしゃいますか」
「シンデレラはいません。黒雪姫ならいますが」
 王子の質問に、太一が答えました。
「失礼しました」
 あっさり帰ろうとする王子でした。
「ちょーっと待ったぁー!」
 扉を開けて、引き止めたのは大輝でした。
「大輝くん?」
「あんた王子様なんだろ? 輝也さんが言うには、お姫様を目覚めさせるのは王子様のキスだって言うんだ。だから、黒雪姫を王子様のキスで助けてほしいんだ!」
「えぇぇ!?」
 大輝は無理やり王子の腕を掴むと、黒雪姫の傍へと連れて行きました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はたしかに王子だが、俺にはシンデレラという心に決めた人が……」
「いいから、さっさとキスして起こしてくれよ!」
 酔った大輝は少々強引です。
「いやしかし、これは――」
 冷静になった王子は、黒雪姫を見て思いました。
「――どう見ても、殺人現場……」
 口に出ていました。
「殺したのは魔女っ子サンタだよ!」
 大輝が涙目で訴えます。
「というか、死んだなら、キスで目覚めるとか無理じゃないか。あまりにも非科学的じゃないか」
「王子様ってば現実的!」
 もう希望が見えません。
「じゃあ、もう俺がキスするしかないな」
 輝也はまだ諦めていません。
「いや、せっかくだから俺がしても……」
 ストームまでちゃっかりそんなことを言い出します。
「ってだから許せるか――――!!!!」
 また兵士が出番を無視して飛び出てきました。
「あぁ、もう! こ、こーなったら、姫は僕が守る!」
 なんだか兵士がかっこいいことを言っています。
「じゃあ、俺はその兵士を守るな!」
 そう言って、緋路は兵士の肩を抱こうと――、
「うぜぇ!」
 兵士は緋路をまたも突き飛ばしてしまいました。
「じゃあ、もう兵士がキスして目覚めさせればいいんじゃない?」
 涙目の大輝がそんなことを言いました。
「――え?」
「いいじゃねーか、それで」
 ニールも太一も頷きます。
「ためしにキスしてみればいいんじゃね?」
「え……。ち、ちょっと待ってよ! え、えっと、さ、さすがにそれは勝手にしちゃ黒雪姫さんに悪いし……」
「人助けのため、仕方ないんじゃないかな」
「そーそー。いいんじゃね?」
「兵士……!」
 太一、ニール、大輝がにやにやしながら兵士を見つめました。
「ええええええ……。そ、そんな……」
「――俺、もう帰っていいか?」
 王子はすでに蚊帳の外です。
「「「キース! キース!」」」
「な、なにこれ。王様ゲームのノリ!? あ、みんな、お酒飲んでるから!?」
 こうして、兵士は黒雪姫にキスをすることに――。
「い、いや、ちょっとまだ待ってよ! 心の準備が……!」
「いいから早く」
 太一が兵士の背中を押しました。
「え、ちょ……まっ……!」
 背中を押された兵士は勢い余って黒雪姫のお腹にエルボードロップを――、
 ドカッ!
「「「ええええええ!?」」」
 女の子に手を上げるなんて、なんて酷い男でしょう。
「いやいやいや違……わざとじゃない! ってそんなことより、黒雪姫さん、大丈夫!? 黒雪姫さん!」
 兵士が慌てて黒雪姫を抱えながら揺すりました。
「う、う〜ん……。けほけほっ」
 なんと、黒雪姫が咳き込みながら目を開けたではありませんか。
「黒雪姫さん!」
「「「「「黒雪姫!」」」」」
「あ、あれ〜……。皆さん、おはようございます〜? ……なんだかお腹が痛いんですが〜……食べすぎでしょうか〜?」
 どうやら、先ほどの兵士のエルボードロップにより喉に引っかかっていたリンゴが取れ、目を覚ましたようです。
「いや、ご、ごめんなさい、黒雪姫さん。ちょっと……事故というか……で黒雪姫さんの体を傷物に――」
「じゃあ、もう兵士が責任取るしかないいんじゃない?」
 大輝が今度はそんなことを言いました。
「――え?」
「いいじゃねーか、それで」
 ニールも太一も頷きます。
「傷物にした責任取って結婚しちゃえばいいんじゃね?」
「え……。ち、ちょっと待ってよ! え、えっと、さ、さすがにそれはいくらなんでも……」
「責任取るため、仕方ないんじゃないかな」
「そーそー。いいんじゃね?」
「兵士……!」
 太一、ニール、大輝がにやにやしながら兵士を見つめました。
「え、ちょ……まっ……!」
「えぇ〜っとぉ……? 兵士?」
「は、はいっ!」
 黒雪姫に声をかけられ、兵士は緊張しています。
 黒雪姫はぺこりと頭を下げると、
「なんだかわからないんですが〜……よろしくお願いします〜」
「え、え!? こ、こちらこそよろしくお願いします!」
 ――こうして、黒雪姫と兵士はすえながく幸せに――。
「ちょっと待てぇぇ――ぃ! なに勝手に〆てんだ! 俺のほうはどうなる!?」
「「「「「「「あ」」」」」」」
 みんな、王子のことなどすっかり忘れていました。
「しょーがねぇ。俺にいい方法があるゼ」
「なんだ?」
 ストームはにやりと笑うと、大きく息を吸い込み――、
「おぉーい、魔女っ子サンタ! ニールをくれてやるから出てこーい!」
「は!?」
「やぁっ! 魔女っ子サンタだよ☆ べ、別にニールにつられたんじゃないんだからねっ!」
「うわ、ツンデレうぜぇ。まぁとにかく、呼んだぞ」
「お困りですか?」
 魔女っ子サンタが尋ねます。
「というか、最初から呼んでれば黒雪姫を助けられたんじゃ……」
 おもわず大輝が呟きました。
「ま、そもそも黒雪姫を殺しかけた張本人だけどね、魔女っ子サンタ……」
 太一が冷静につっこみました。
「魔女っ子サンタ! 俺はシンデレラを探しているんだ!」
 王子が訴えると、魔女っ子サンタは言いました。
「隣国なのになぜここまで来た……? 方向音痴なのか……?」
「い、いいから早く!」
「へいへい、了解」
 魔女っ子サンタは王子の頼みを受け入れると、
「いでよ! シンデレラ〜!」
 シンデレラを召喚しました。
「え!? なになにっ!? 今から着替えるところだったのに!」
 まだバニーガール姿のままだったシンデレラが喚きました。
 王子はシンデレラの姿を確認すると、
「おぉ。あなたはまさしくシンデレラ……!」
「っていつの間にか落としてきたガラスの靴まで履かされてるし!」
 驚いたシンデレラを、力強く抱き締めました。
「キャッ……! ち、ちょ……っ」
「うわああ! おまえ、アリス――シンデレラになにすんだぁっ!」
 ストームが王子におもいきり蹴りを食らわせました。
 シンデレラは真っ赤です。
「…………っ! ってぇぇぇ――――! おいこらストーム! なにすんだよ!」
「シンデレラを抱き締めるとか……うらやましいことしやがって!」
「まったくだ! そんなかわいい娘を1人締めしようなんて許せないな!」
 ストームの言葉に、輝也も賛同しています。
「あのなー! 俺にはもうあまり時間がないんだ! クリスマスの間にどこかの森にあるという伝説の樹の下で、彼女に告白をしてもらわないとならないんだ! シンデレラは見つかったが、今から伝説の樹を探さなくては!」
「ちょっと王子! 伝説の樹の場所知らないんですか!? てっきり知っているものだと……!」
「知っているなんて一言も言ってないぞ!」
 従者の胃痛はさらに激しくなりましたとさ。
「伝説の樹? あのクリスマスの日に伝説の樹の下での女の子から告白されると幸せになれるという伝説がある樹?」
 大輝が尋ねました。
「そうだ!」
 王子が頷くと、大輝が窓の外を指差して言いました。
「それって――」
「――これか!?」
 王子が小人の家から飛び出ると、そこには立派なクリスマスツリーがありました。
「この樹にそんな伝説があるよ」
「あぁ、あったなぁ、そんなのも。ここの家には男しかいないから、すっかり忘れてたぜ」
 ニールがツリーを見上げながら言いました。
「ちょうど日付が変わって、今日はもうクリスマスだよ」
 大輝が時計を見て言いました。
「そ、そうか……。あ、あの、シンデレラ……」
 王子はシンデレラを振り返りました。
 そこには、顔を真っ赤にしたシンデレラがいました。
「え、えっと、その……」
 シンデレラは湯気が出そうなくらい赤くなり、小さくなってしまいました。
 魔女っ子サンタは小さくため息を吐くと、
「あぁーもう面倒臭いな! みんな素直にな〜れ☆」
 と、どうやらみんなに素直になれる魔法をかけたようでした。まぁ魔女っ子サンタ(の中の人)が使えるのは魔法じゃなくて呪法ですけどね!
「あの……お、王子様! わ、私と結婚してください!」
「「「「「「「「「言った――――!!」」」」」」」」」
 とうとうシンデレラが王子に向かって告白をしました。
 王子はもう満面の笑みで頷きます。
「あぁ……! 2人で幸せな未来を築こう……!」
 王子は静かにシンデレラを抱き締めました。
「あぁ、もうなにこのラブラブ」
 魔女っ子サンタは吐き捨てるように言った後、ニールのほうを見て、とつぜん言いました。
「あのさ……ニール。好きなんだけど……」
「………………え?」
 ニールが固まりました。ついでに周りのみんなも固まりました。
 その反応を見た後、魔女っ子サンタは真っ赤になって我に返ったように叫びました。
「いやいやいやいや! ち、違……っ! い、今のは、その……手違い……っていうか、その、違うんですぅぅ――――!」
 どうやら、素直になれる魔法が自分にもかかってしまっていたようです。
「え? あ、え……?」
「いやーめでたいですなぁ」
「めでたいめでたい」
 みんなニヤニヤと2人の様子を眺めています。
「う、うわああああん! 違うのおぉぉ――――!」
 魔女っ子サンタが暴れ始めました。
 ポンッ!
 と、とつぜん何者かがそこに現れました。暴走から、間違えて召喚してしまったようです。
「ゲホゲホッ! も〜なにぃ? ――って、あー! 黒雪姫、まだ生きてるのぉ!?」
「なんで俺も一緒なんだZE!?」
 そこに現れたのはお妃様とついでに鏡でした。
「あ、継母なお妃様〜。こんばんわ〜」
「こんばんわ〜……って違うぅ! 魔女っ子サンタ! 黒雪姫、死んでないじゃないのぉ!」
「お妃様! いくらお妃様でも、黒雪姫さんに手を上げるというのなら、許しません!」
 兵士が普段なら想像できないくらいかっこいいことを言いました。もしかしたら、兵士にも魔女っ子サンタの魔法がかかっているのかもしれません。
「むー。なんで白いのに黒雪姫なのぉ? こっちも許せないから殺すしかないよぉ」
 もうお妃様の言うことがトンデモ理論すぎます。
「あ、と、ところで! 黒雪姫も兵士にこの樹の下で告白しておかないと! 幸せを保障するために!」
 魔女っ子サンタが自分のことをごまかすようにして、黒雪姫に言いました。
「え? あ〜はい〜」
 黒雪姫がぺこりと頭を下げると、足元に落ちていた木の枝が彼女の目に入りました。
「あ〜。ゴミが落ちてます〜」
 そんなことを言って、その木の枝を手にしました。
「あ!」
「あーあ……」
「あーっはっはっは! お妃様さぁ、私を殺すとか言ってる? いい度胸してんなぁ!」
 黒雪姫はまた黒姫になってしまいました。
 黒姫は木の枝をびしっとお妃様に突き出しました。
「黒姫――黒雪姫様! 危ないですから! 下がっていてください!」
 それを兵士が慌てて止めます。
「なんだよ! おまえが私を守れるっていうのかぁ?」
「えぇ、守ります!」
「な……っ!」
 はっきりと言う兵士に、黒姫はおもわず赤くなってしまいました。
 そんな状況を見ていたお妃様は、体を震わせて呟きました。
「黒い……姫――黒雪姫! たしかに黒い感じ。納得!」
 なんか納得したそうです。
「納得したから、もう殺すのは別にいいやー」
「よくわからないんだZE!?」
 あっさり殺害計画を止めるお妃様でした。
「大丈夫ですか? 黒雪姫様」
 兵士が黒姫を気遣って尋ねました。
 黒姫は顔を真っ赤にして、
「な、べ、別に、1人だって大丈夫なんだからね! で、でも、ありが――ありがとうなんて思わないんだから!」
「は、はぁ……」
「あ、あんたのことなんて、好きなんかじゃないんだからねっ!」
「はぁ……」
 困ったように頷く兵士でした。
「あー。まぁとにかく、枝を取り上げるか」
 魔女っ子サンタが黒姫から枝を奪うと、黒雪姫はすっかり元通りになりました。
「えっと〜……兵士。なんか、好きみたいです〜」
「え? あ、えぇ……」
 黒雪姫にさらりとそんなことを言われて、兵士は真っ赤になってしまいました。
 黒雪姫はにこりと笑って、
「なんだか、もう1人の自分も兵士が好きみたいですよ〜」
「え?」
「ふふっ……」
 意味深な発言をして、黒雪姫はいたずらっ子のように笑いました。
 うわぁ、もう、なんですかこのラブコメ。こんなのをなんの予定もないクリスマス・イブに書いてる自分が泣けてきますよ。いや、それを通り越して笑えてきますよ。
「ナレーション、ドンマイ」
「ちくしょー! 俺にも誰か連れてこいよ! 狩人とか!」
 ストームが魔女っ子サンタに詰め寄ります。
「え、えぇ? 呼んでもいいけど……いでよ! 狩人!」
 魔女っ子サンタは狩人を召喚しました。
「え? あれ? ここどこ?」
「狩人、かわいい! 魔女っ子サンタ、GJ!」
「おー」
 すっかり上機嫌のストームでした。
「むー」
 不機嫌そうなのはお妃様でした。
「さーてと……そろそろパーティーの続きでも始めない?」
「ピュウピュウ」
 大輝がそう言うと、ピュウが頷くように鳴きました。
「じゃあ、もういっそみんなでパーティーしようかね! まぁ簡単なプレゼントも用意してあげるから!」
「そうだね!」
 魔女っ子サンタの言葉に、大輝が頷きました。
 魔女っ子サンタはにっこり笑うと、さらに大勢の人を召喚しました。
「いでよ! 継母、義姉、義妹、ネズミ1、ネズミ2〜!」
 ポンポンポンポンポンッ!
「あれ? ここは――って、シンデレラー! なんか王子様とくっついてるしぃ! せっかくの俺の野望が……!」
「こら継母。おまえはいったいなにを企んでたんだ」
 太一が継母につっこみました。
「あ……従者さん……」
「え? あ、あなたは、シンデレラのお義姉さん?」
「そんな……明子って呼んでください」
「え?」
 義姉と従者もなんとなくラブコメをしています。
「魔女っ子サンタさん。とりあえず、私に平凡で幸せな家庭をください」
「あは、あははははは……」
 死んだ目をして言う義妹に、魔女っ子サンタは青い顔で苦笑いをしました。
「なんだかわからないが……めでたいようだな。感動した!!!!」
「とりあえず、今日の星占いによるとクリスマスパーティーがいいようだ。さっそく参加しよう」
 ネズミたちもノリノリです。
「あー……。俺の兵士ぃ……」
 涙目の緋路に、
「別におまえのじゃねーし。しかしかわいい娘はみんなカップルになってやがるし……。あ、とりあえず、お妃様でもナンパしてこよう。お妃様! いやーお美しいですね」
 輝也は立ち直りが早いです。
「さて、えっと……ニールも、パーティー、戻ろっか」
 頬を少し赤く染めながら、魔女っ子サンタはニールに声をかけました。
 ニールも少しだけ顔を赤くして頷きました。
「お、おぉ」
「みんなー! クリスマスパーティーの続き始めるよー!」
 大輝が家の扉から手を振っています。
「おー! 今行く!」

「では、改めて――メリークリスマス!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「ピュウピュウー!」





☆ おまけ ☆
キャスト
グローリ・ワーカ 出演キャラクター
マニュア・ホワイト 魔女っ子サンタ
呪法が使える魔女でサンタ。
ティル・オレンジ お妃様
魔法陣を描いてそこから魔物を呼び出せるお妃様。
ストーム・カーキー 小人1
かわいい娘が好きなお調子者の小人。
アリス・ヘイズル シンデレラ
ちょっと中身が黒い灰かぶり。
ニール・クラベット 小人2
それなりにまともだけどノリがいい背の高い小人。
アルト・クリーム 狩人
他人を上手く言いくるめてしまうちょっと酷い狩人。
ヤン・サンド 王子
変態のうわさが立ってしまった長身で文武両道な王子。
ピュウ 小人7
ピュウピュウ。
シリア・ブラック 義妹
家族に恵まれないかわいそうな義妹。
僕の生存日記 出演キャラクター
川野辺 葉乃 兵士
姫に恋するツッコミ兵士。
神成 躍人 ネズミ2(御者)
星占いが大好きな強面のネズミ。
千羽 緋路 小人3
兵士さえいなければまともなツッコミの小人。
黒井 姫 黒雪姫
細長い棒状のものを持つと豹変する二重人格なお姫様。
今池 輝也 小人4
さらにかわいい娘が大好きで軽くナルシストな小人。
ひので町コント 出演キャラクター
太一 小人5
絵描きでちょっと不幸な小人。
陽二 継母
明るいが中身は意外と黒そうな継母。
明子 義姉
虫だけは苦手なキレイ好きの義妹。
大輝 小人6
苦労人な小人。
KIRA
語尾もノリもセンスも変な鏡。
PIKA ネズミ1(馬)
感動屋の強面のネズミ。
光助 従者
まともで周囲に振り回されがちな従者。


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