僕の生存日記   第1話:僕らはみんな終わってる

 『川野辺 葉乃』は、ある春に見た目ヤクザの『神成 躍人』と出会いました。
 どうやら先輩らしいです。

「いやー部員が集まらなくて困ってたんだよ。今、俺とお前合わせて2人のみ!」
 ヤクザこと神成先輩が明るく言う。
「は、はぁ……」
 それでやっていけるのだろうか。
「っていうか、まだ正式に部活として認められてないんだけどな!」
 おいおい。
「あ。お前、名前は?」
「あ、あの、『川野辺 葉乃』です……」
「そうかそうか。お前、友達でも缶蹴り部に誘ってあと3人集めろ。5人じゃないと部活にならないんだ」
 ビシっと指を突き立てて言う。
「……って、無理ですよ!!そんなぁ〜!!」
「ん?何か言ったか?」
 え、笑顔が怖い……断ったら殺される……
「……いえ、やらせて、頂きま……す…………」

「はぁ〜……」
 やっと家に辿り着いた。
 僕は部屋に入るなり、鞄を投げ捨てると、思いきりベッドへとダイブした。少し冷えた布団が心地好い。
「今日は散々な日だな……」
 一人呟く。
 まさか、まさか、あんなのに絡まれるとは……やっぱり、僕の高校生活は終わってる。

 ――と、その時。
「おい、葉乃!!」
 呼ばれて顔を上げる。目の前に広がる窓には、よく知っている顔があった。
「千羽!」
 幼馴染であり、唯一の保育園からの友達である同級生の『千羽 緋路(せんば ひろ)』。お隣さんだ。
「ちょいと上がらせてもらうぜー」
 僕と千羽の部屋は向かい合っている。
 これがかわいい女の子だったらラブストーリーにもなるものの、こんなんだから笑えない。
 千羽は眼鏡をかけた細身の、所謂オタクだ。漫画やアニメ、ゲームよりかはパソコンなんかのハードに興味のあるオタク。
「おらよ、見てくれ」
 千羽が僕に見せたものは――ロボット。
 床の上に置くと、勝手にそこら辺を歩き始めた。
「お前、まだそんなもの作ってんのかー」
 僕は苦笑い。千羽は憤慨して、
「そんなものとは何だ!ロボットは人間達の努力の結晶!素晴らしきテクノロジー!!」
 目を輝かせる。
 パーツを集めてロボットを作っているよりは、隣で本を読んでいた方が楽しい僕にはイマイチ分からない。
 そこへ、ロボットが何かを持って戻ってきた。
「ん?」
 ロボットの手に持った物を見て、僕は吹き出す。
「お。エロ本じゃねーか。やるなぁ、葉乃!!」
「ちょ……おまっ、何だこのロボット!勝手にいじくるなよ!!戻せ!!!!」
 ベッドの下に隠しておいた物を探り出されて慌てる。こいつ、本当にくだらないものを……!!

「で、お前、彼女とかできたんかー?」
 すっかり居座っている千羽が、ふと尋ねてくる。
「いないよ。そんなにすぐ出来るわけないだろ」
「そうだよなー。彼女がいれば、エロ本なんかより本物で十分だよなー」
「いい加減その話やめろよ!」
 千羽は僕をからかっては、楽しそうな顔をする。全く、悪趣味だったら……
「しかし、最近は葉乃と会う機会も減ったからなー。クラス滅茶苦茶離れてるし」
 ――そう。千羽も同じ小竜高校なのだが、一学年12クラスもある上、僕は1組、千羽は12組と、完全にクラスも離れてしまった。
「だからよ、最近葉乃がどんな様子なのか分かんなくて聞いてみたんだよ」
「そうか……」
 もしかしたら、千羽は僕のこと心配してくれたのかもしれない――

 ……そうだ、千羽になら……さっきの話、缶蹴り部のことを相談してみてもいいのかも……
 というか、僕には、千羽くらいしか友達がいない。
 その現実にがっくりとする。


「――で、僕、どうしたらいいのか……」
「ふぅむ……」
 千羽は考え込んでいる顔。手を顎に当て、唸っている。
「まぁ、断れたらいいんだけどね……殺されそうで……」
「じゃあ、俺がそこに入って、更にあと2人探してくればいいんだな?」
 千羽の思わぬ言葉に、僕は驚く。
「え、そ、そうだけど……っていうかそれしかないんだけど。いいの?大丈夫なのか!?」
 千羽はガッツポーズをして、
「あったり前よぉ。葉乃が困ってるのを見捨てられるわけないだろ!」
 そう言ってくれた。
 ……僕は、本当にいい友達を持ったようだ。
「ありが――」
 ――とう。と言いかけたその時、千羽はとんでもないことを言い始めた。
「葉乃が心配だったんだ。何か大変な目に遭ってないかとか、彼女できてないかとか。クラスも離れちまってなかなか会えないからさ。だから、今言うよ」
 ――ん?


「俺、お前が好きだから」



 僕 、 い き な り ク ラ イ マ ッ ク ス !!