エンタメクラブ   Act.3:初めての活動

 さて、まだ教室には、よく知り合っていないクラスメートが数人残っているわけだけど……。なにをやっているんだろうか、私……。「なにしてるの、この人?」そんな目で見られている。本当にこの教室に隠れるのか? 怪しいうえに、すぐ見つかってしまいそうな気もする。
 教室内を見回してみるが、隠れられそうな場所は――教卓の下とか、掃除ロッカーの中とか。あと、各教室には、廊下とは反対側に窓があってそこからはとうぜん外が見えるのだけれど、そこにはベランダも付いていて、窓の横――教室の後ろ側に1つだけベランダへと通じる扉がある。そこへ出るとか、それくらいかな? ――学校内で鬼ごっこ(というか、かくれんぼ)しても、なかなか隠れられないものなんだねぇ。
 しかし、これはやばいなぁ。松と話してたし、森はもうとっくに探し始めていることだろう。このままここにいたら見つかる気がする。
 とりあえず、ベランダの鍵を開けてそっと外を覗いてみた。まぁ、ここ4階だし、逃げられるわけもないけど……。
 と、ちょうど、その直後だった。
 がらら、と音を立てて教室の扉が開いた。
 その音に驚いて、慌てて窓の下へと隠れる。ベランダの扉閉める余裕なかったけど!
 そっと窓から中の様子を窺ってみると……ビンゴ! 森だー! 森キター!
 森は教卓の下を覗いたりしている。が、ベランダの扉も開いていることだし、見つかるのはどう考えても時間の問題でしょう!
 幸いにも、この学校のベランダは、教室間を遮るものなどなく、隣の教室ともそのまま繋がっている。
 私は慌てつつもそろそろと身を屈めながら、ベランダを伝って隣の教室へと向かう……。さらに幸運なことに、ベランダの扉の鍵は開いていて、さっと中へと逃げ込むことができた。
 ――はーっ。助かったぁ。
「って、うぁ……。ご、ごめんなさい!」
 隣の教室へ逃げ込んだのはいいけれど……中では、男女が2人、こちらを怪訝そうな表情で見ていた。じっとりとした視線がツライ。
 ――あぁ、そうですか。すいません。
 私は苦笑いで頭を下げると、その教室から飛び出した。

 ――学校内でイチャイチャしてんじゃねー!!
 邪魔してすいませんね。もう後は思う存分、お好きにしててくださいなっ!

 なんとか見つからずに4階を脱出した私。現在5階。でも、どこに逃げろと?
「ひ、ひとまず休憩〜」
 私は女子トイレの中へと潜り込んだ。
 卑怯かもしれないけど、さすがにここまでは入ってこれないもんね。
 個室に入って考える。
 ――どこに逃げればいいんだ? 着ぐるみ理事長や葉山、さっき逃げた茜さんは、どこへ行ったんだろう?
 腕組をしながら、いろいろな教室を思い浮かべ、逃げ隠れるイメージをしてみる。
 ――そうだ! とりあえず、図書館にでも逃げるか!
 けっきょく思い浮かんだのはそれくらい。だって、知らないクラスの教室に入る勇気はないし(さっきはおもわず逃げ込んじゃったけど)、ほかの特別教室が空いている可能性が低いんだもん。空いていたとしても、部活をやっているか先生がいるかでしょ……。
 そーっと、様子を窺いながら廊下へと出る。
 図書館の場所は、現在出た廊下をまっすぐ行った突き当たり。そこへと向かって、足早に歩き出した。

「木谷さん」

「うわぁっ!?」
 とつぜん背中から声を掛けられ、私は心臓が3センチは飛び上がったと思う。
 後ろを振り返ると、そこには葉山の姿が――
「葉山! 逃げてるところ? 今、どこに逃げようか悩んでてさー……」
 葉山に駆け寄ろうとしたが、ふと、嫌な予感がよぎって立ち止まる。
「あのさ、葉山……」
「木谷さん、無事だったんだ」
 葉山がゆっくりと1歩近付く。
 反射的に、私は1歩後退りしていた。
「……」
「…………」
 無言のまま、また葉山が1歩進む。私は1歩下がる。そして、それが何回か続く……。
「えっと、あの……」
「……俺…………」
 葉山が静かに口を開いた。
 そして、次の瞬間――
「――陸上部の先輩に見つかって話をしている最中に、ヒロに捕まったんだぁぁぁぁ!」
 そう叫びながら、私に向かって突進してきた!!
「こ、来ないでえぇぇ――――――――っっ!!」
 その場から猛ダッシュで逃げ出した。

 現在、鬼×(たぶん)2。
 私は鬼の葉山を背に、共に5階の廊下。
 さて、これは逃げ切れるの――!?