エンタメクラブ   Act.5:学校の怪談

 玄関の扉を持っていた鍵で開け、着ぐるみ理事長は堂々と校舎内へ侵入した。
「忍び込むと言ったわりには、鍵とか使うんですね?」
「え? じゃあ逆に訊くけど、どうやって中に入るのか?」
 それはそうなのだが。忍び込むとはなんだったのか。
「ところで、セキュリティは大丈夫なの?」
「そういうシステムもちゃんと切ってあるよ」
 忍び込むとは(略)。
 それにしても、セキュリティシステムを切ってしまっていいのだろうか? 普通に考えてダメだろう。
 しかし、ツッコむのも、もう面倒になっていた。
 それに着ぐるみ理事長ならなんとかしてくれるに違いない。なぜだかそう思えるのだった。

 私達以外には誰もいない廊下を、パタパタと、上履きで歩く音が響く。
 懐中電灯の灯りと、ところどころに存在している非常灯の灯りだけが、平日の昼とは対照的に寂しそうな廊下を照らしていた。
「――というわけで、ここから2人1組に別れてもらいます」
 前を行っていた着ぐるみ理事長がとつぜん振り返り、そう告げた。
 そして、わかってしまった。こいつはこれがやりたかっただけだと。
「それは危険じゃないか?」
 高木君が反対の声を上げた。いいぞ、もっと言ってやれ。
 しかし、それを自信満々に否定する着ぐるみ理事長。
「いや、危険なことなんてない! だって、私の学園だぞ!」
「人が死んだっつー部屋をどうにかするのに、なんで危険じゃないって言えるんだよ!」
 さらに正論で攻める高木君。――もしかしたら、彼なら着ぐるみ理事長を言い負かせられるかもしれない。そうだとすれば、宵ちゃんと同じくらいすごいな、高木君……。あぁ、私も頑張らなきゃなぁ。
 なんて、どうでもいいことを考えながら2人のやり取りを見ていた。
「とにかく! 大丈夫だって! ペア決めるよ!」
 けっきょく、着ぐるみ理事長は自分の意見を押し切ってしまうのだった。
 だいたいそうなることはわかっていたけどね。出会ってから今日まで、まだそれほど月日は経っていないというのに、私は着ぐるみ理事長の傍若無人ぷりにすっかり慣れてしまっていた。
 それにしても、少しだけ気になることがある。
 華藤さんがいないこと、そして、今のやり取りで、着ぐるみ理事長が「大丈夫」と言い切っていたところだ。2人1組に別れるなんて提案もしてくるし、なんというか、これ、ぶっちゃけ仕組まれてるよね? としか言えない。本当に口にしたらなにか言われそうだから言わないけど。
「うん。そっちのほうがいいと思うよ?」
 着ぐるみ理事長がペア分けのためのくじを私に差し出しながら言う。
 ――あぁ、また心を読まれていた。
 私は深く溜め息を吐いて、くじを引いた。