グローリ・ワーカ   第13章:不安

 ここはアストルムという国にあるシドゥスという町らしい。
 人間界で今までいた国ですらなく、本当にランダムに出てしまうようだ。
(そういえばシリアから2人が呪法を教わってたとき、座標を指定できるようなことを言っていたような……。迂闊だった……)
 はっきりとどこで合流するか話し合わなかったことに、ピュウは自分を呪った。
(…………いや、しかし、きっと……)

 ガララン。
 マニュアが宿屋の扉を開きながら元気良く声を上げた。
「泊まりたいんですけど――……て、え、えぇ!?」
 その声は、途中から驚きのものに変わる。
「アレ……? マーッ!!!!」
「え……? マニュちゃん? あっ、本物ー!」
「偽物があるんかい!」
 アルトの言葉に思わずツッコむ。
 そう、そこにはアルトやティル、仲間たちが揃っていた。なんと運がいいのだろうか。
「ピュウ、助けてくれたんだね! ありがとぉ」
 ティルがピュウの姿を見つけて、頭を撫でる。
 ピュウは満足そうに、
「ピュウ!」
 と一言鳴いた。
「良かった、良かったー!」
 みんな嬉しそうに声を上げた。ピュウはその様子に安堵していた。
 ただ、マニュアは一瞬陰った表情を浮かべたが、誰もそれには気付かなかった。
「マー!」
 ティルがマニュアに抱きつくと、どうツボに入ったのか、
「ギャハハハハハハ!!」
 と大声をとつぜん上げた。
「ま、マー……?」
「く、くすぐったい。ティルちゃん、くすぐったかった、今」
 その言葉に、とつぜん目が三日月のように細くなる女子群。
「なに? なんか脇の下に腕が入っちゃったみたいだよぉ。ごめんね、マー」
 ガシッ。
「え? ちょ……な、なに? なんで肩をがっしりと掴まれてるの?」
 ティルが謝りながら、身動きが取れないようにマニュアの肩をがっちり固定した。
「うふふふふ……」
 怪しい笑みを浮かべるアルト。そしてアリス……。
「ちょっと……待っ……」
 コチョコチョコチョコチョ。
 マニュアが抵抗する間もなく。なぜだかくすぐりの刑にあってしまうのだった。
「キャハハハハハ! アハハハハ! や、やめ……! やめろって言ってんだろうが――――ッッ!!!!」
 しばらくくすぐられた後、ぶちきれたマニュアはなんとかティルの拘束から抜け出し、
「おっ返しだああ――――!」
「マー! やだーっ!! アハハハハ!!」
 しっかりとティルに仕返すのだった。
 怪しい笑いを浮かべながら、ティルを思う存分くすぐった後、
「よし! アリちゃんちアルトさんにも――あれ? アルトさんは?」
 振り返ると、アルトの姿が見えない。
 アリスが答える。
「身の危険を感じて逃げた」
「アリスちゃんは逃げないんだね」
 黒い笑みを浮かべてマニュアが言う。
「いや、今から逃げる……よ……」
「覚悟――――――っ!」
「いやー! キャハハハハ! やめて――ッ!!」
「なにやってんだ、あいつら……」
 男子群が冷めた目でその様子を見ていた。
「ふぅ。2人への復讐は終わった! 残るはアルトさんのみ。どこ行ったー!」
 マニュアが恐ろしい表情で声を荒げる。
 それを離れた場所から伺うのは――、
「恐ろしや恐ろしや……」
「――アルト。俺の後ろでなにやってんだ……?」
「ちょっとかくまってください……」
 ストームの陰に隠れこそこそと話すアルト。
 それをマニュアが見逃すはずもなく。
「そこぉ! なにをブツブツ言ってる!」
 ビシィ! っとストームに向かって力いっぱい指差した。
 ストームが慌ててごまかす。
「な、なんでもねーよ!」
 ゴソッ。
「ん? 今、ストームの後ろの影が動いたよーな……」
 目ざといマニュア。
「ん、んなワケねーだろ!」
 スススススス……。
 なぜか蟹歩きでストームの横まで行き、マニュアは言った。
「やーっぱり。アルトさん、見〜っけ」
「え、いえ、その……!」
「うらぁっ!」
 コチョコチョコチョコチョ。
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
 言葉にならない悲鳴を上げるアルトだった。
 なんとも平和な光景に、ピュウは目を細めた。
 しかし、宿屋の人はカンカンだ。
「お客様! 他の方の迷惑となりますので!!」
 こうして、騒がしい再会のシーンはやっと幕を閉じた。

「……なんだか、無駄に疲れたね……」
「いや、最初は、ティルちゃんが私に攻撃するからだよ……」
「……あ、そうそう。話変わるけど、この町によく当たるって評判の占いの館があるんだってー! えーっと『スターダストキャッスル』とかいうの。今日はもう遅いから、明日行こうねぇ!」
 ティルがマニュアに楽しそうに言う。
 再度魔王城に乗り込むまでの、一時の休息。
「あ、うん……」
 それまではこの旅を楽しもう。そうみんな思っているのだろうか。
 ――なにも考えていないだけかもしれないが。
(占い、か……)