グローリ・ワーカ   第13章:不安

「マニュア……さん……」
「……な、なにっ!?」
 2人は館からずいぶんと離れた、町を流れる1番大きな川の川べりへと辿り着いた。
 お互いに息が上がっている。
「と、とりあえず、話を聞いてください……」
 土手に座り込んだマニュアの背中へと、後ろから立ったまま声をかけた。
 マニュアは首を横に振った。
「……やだよ。そんなの、怖いよ……」
 マリアは静かに瞼を閉じた。そして、水晶に手を翳す。
「……あなたは、あることを知っていますね。それは、誰にも言えないこと。言っても信じてもらえるかも分からないこと」
 マリアの言葉に、はっと顔を上げる。
 マリアは続けた。
「あなたが知っているのは、1つの未来。たった1つだけの未来」
 マニュアの肩が小さく震える。
「言わないで……」
 マリアを祈るような目で見つめていた。
「――それは、可能性の1つであって、今後、起こりうるとは限らない未来ですよ」
「……え?」
 マリアがゆっくりと目を開けた。
「それって……どーいうこと」
 マニュアが問う。
 マリアは静かに答えた。
「未来は、何通りもあります。あなたはその中の1つを知っているだけです。……未来はね、たった一言、何かを話すか話さないか、それだけでも変えられるくらい脆いものなの。自分次第で、未来はなんにでも変えられる。――未来は、無限にあるんです」
「無限……」
「あなたは今までにいろいろな経験をしてきたと思うけど、それは、あなたの見た未来とまったく同じものだった?」
 マリアの問いかけに、マニュアはふるふると首を横に振った。
「そりゃ、少しは、違うと思うよ……」
「なら、未来は変えられますよ!」
 マリアが笑顔で答えた。
 マニュアは少し安心したと同時に、疑問を抱いた。そして、訊いてみた。
「……じゃあ、さっき占った未来はなんだったの? いったいなにが見えるの?」
「あぁ、あれ? あれは、あなたが1つ未来を知っているように、可能性のある未来を1つだけ映してくれるんですよ。ただし、それが100%起こるかなんてことは、私にも分からない」
「……なにか、見えたの?」
 恐る恐る、マリアに尋ねる。
 マリアはにっこりと笑って、
「空を流れ星が流れていくところ」
「へ?」
「ふふっ」
 マニュアにはよく分からなかったが、そう悪くもない未来だったのかもしれない。
「マニュアさん。他になにか占ってほしいことはある?」
 マニュアの横へと座ると、マリアは柔らかい笑みを浮かべて尋ねた。
「マーでいいよ。……そーだな。そうだ、そうだった。恋占いしてもらおうと思ったんだった」
「えー? マー、好きな人いるんだ? 誰ぇ〜?」
「フッフッフー。さて、誰でしょ〜?」
 笑い合う2人。
 今ここにいることすら、それは過去の自分が選んできた結果なのだ。
 未来は無限にあり、それは、自分の力で変えることができる。未来は自分の力で作っていくのだ。
 2人の少女が談笑しているそのとき、空を一筋の流れ星が流れていった。