グローリ・ワーカ   第17章:カタストロフィ

 トンヌラの呪法によって裂かれた床に転落しかけたティルを片手で支えるニール。
 辛そうに眉をしかめながらも、ニールは笑った。
「……ったく。世話が焼けるぜ。おまえ、体重何キロだ?」
「バカなこと、言わないでよ!」
 この状況に余裕があるわけではないが、だからこそ笑って言った。
 しかし、とりあえずこの話は後にして、ティルを引き上げなくてはならない。――が。
「ニールくん、でしたっけ? それでは背中ががら空きですよ。ロック ドロップ!」
 トンヌラが口元だけにやりと笑って唱えた。すると、ニールの頭上から大きな岩が彼目掛けて落ちてきた!
「クラベット! 危ないっ! 上っっ!!」
 ティルが叫ぶ。ニールが頭上を振り返った。しかし、もはやどうすることもできない。
「うわぁぁぁぁっ!!」
「クラベッ……――!」

 さて、キリオミはアリスにボコボコにされているからいいとして――、
「ひ、火が出ません……。な、なぜ……?」
 そう泣きそうな声で言うのはトリヤス。大ピンチだった。いったい、どうしたというのか!?
「とにかく! 隙ありぃっ!!」
 ザッ!
 スリムの剣が、トリヤスの右わき腹を貫いた。スリムはそのまま腕を右に引いて胴から真っ2つに裂こうとしたが、トリヤスの脂肪のついた腹はそう簡単に2つに切り離せるものではなかった。
「お、大きなお世話です!」
「く、くそっ」
 剣を引き抜いて、スリムは1度後ろに退いた。
「でも、大丈夫だよ! 結構傷を負わせられたじゃん!」
「まぁね」
「くっそー。どうして火が使えないんですか!?」
「よーし! 相手はまだ火が使えないようだし、もう1発!」
「スーちゃん、頑張れっ♪」
「どうしてデスカ――――!?」
 壊れ気味のトリヤス。
 ――火が使えない理由。それは(もうわかっているかもしれないけれど)こうだった……。

「アロー・バーン・スパーク! アロー・バースト・フレイム!! えーい! アロー・スプリング・ブレイズ!」
 アルトが矢をありったけ放つ。狩人ならではの周囲から力を借りるという魔法付加によって、その矢は火を纏っている。そう、誰かの力を借りて、だ。
「あつ、あつ、あつぅ――っ!! ち、ちょっとぉ! 手加減ってものを知らないの!?」
「そんなの、誰がするかぁっ!! アロー・バーン・スパーク!! アロー・バースト・フレイムゥッ!!」
 ボウッ! ゴォーッ!! バチバチィッ!!
 火は燃え上がり、弾け飛び、蛇のようにうねり、天までも穿った。
 ――すでにバーサーカーと化している彼女を、もう誰にも止めることなどできないであろう……。
「まだまだぁ!」
 ゴゥンッ!! ドカーンッ!!
「くらえーっ!!」
 チュドーン! ドバーン! ドゴーンッ!!
 辺り一面、とんでもないことになっている。そのうち魔王城ごと燃え尽くすのではなかろうか……。
「ゲホゲホッ!! な、なんなのこ、この子。かなりキテルわねー……」
 しかし、ミンミンもよく死なないよな、と思う。
「う……。次はっ……!」
「ちょっと待ちなさいよ」
 まだなにかを繰り出そうとしているアルトを、ミンミンがむりやり止めた。
「なんでそんなに怒ってるのよ」
「え……?」
「なんでそんなに怒ってるのかって訊いたのよ」
 ミンミンが再度言った。アルトには、一瞬、その意味がよくわからなかった。
「え? な、なんでって……?」
「だって、あまりにもすごいじゃないの、この攻撃は、この怒りは。それはただ仲間を殺されたっていう怒りからきてるの? そんな単純なものなの?」
「え? いえ、そうじゃなくて……あなたが私に金属片を――」
「それは誤解よ」
 アルトが再びボケようとしたところを、ミンミンがさらりとツッコむ。
「そうじゃないでしょう。あんたが怒っているのは、そこじゃないでしょ。それは仲間を殺された怒り? いえ、それは――」
「え?」
 そして、ミンミンがとんでもないことを口にした。
 アルトはおもわず固まってしまった。

「おぉっ! やっと火が使えるようになりました!」
 トリヤスが立てた指先から、やっと小さな火が出現した。
「これでやっとこの人たちを殺すことができますね! フリック スパーク!」
 ボッ!
「あつっ!」
 持っていた剣の柄に小さく火が走り、スリムはおもわず手を離してしまった。
 その剣を、トリヤスが拾う。
「ふん! 剣さえなくなればこっちのものです」
「くそっ!」
「ス、スーちゃんっ!」
 焦る2人を見て、トリヤスはにやりと笑って言った。
「それじゃあ、あなたのこの剣で、あなた方を殺してあげましょう。冥土の土産としてね!」
 言い終わるや否や、トリヤスは2人を目掛けて力いっぱい剣を振った!
 ブンッ!!
「「!!??」」
 スカッ!!
「「「え……?」」」
 ――トリヤスの振った剣はものの見事に空振りし――、
 スポッ!!
 ――おまけに手からすっぽ抜け――、
 グショッ!!
 ――……トリヤスの足に突き刺さった…………。
「!!!!!! ――――――――――――……!!!!」
 トリヤスは悲鳴にならない悲鳴を上げ、辺りを転げ回った。……剣を扱う技量はなかったようだ……。
「くっそー! うるさいです――!! ほっといてくださいなっ!」
 トリヤスは足を負傷した。
「だ、大丈夫? 回復魔法、要りますか?」
 あまりの痛そうな様子にヒナはおもわず訊いてしまった。トリヤスも涙目で、
「おお。かたじけな――」
「敵を回復してどーすんのおおおお!!??」
 スリムのツッコミによって、足を回復することは叶いませんでしたとさ。
「くすん……。意地悪です……」
「あんたにプライドやらポリシーはないんかい!」
「……仕方ないです。じゃあ、せめて一時休戦させてください」
「わかったよ。その代わり、剣は返してもらうからね」
 ということで、ここはしばらく休戦することとなった。