グローリ・ワーカ   第19章:ずっと傍にいる

 荒い息遣いが聞こえる。汗を流しながら、彼らは戦っていた。決着はなかなか付かず、ただお互いの体力だけが削られていく。
 ――長らく、彼らの戦闘は続いていた。
 勇者ら一行と四天王の戦い。それは、そう簡単に決着が着くものではなかった。そう、現実世界で2年という月日が過ぎ去ってしまうくらいには――!
「始まっていきなり、更新が止まってた理由を俺らの戦いのせいにすんな! さすがにそこまで戦ってねーよっ!」
 お、おぅ。ストーム……。まさかストームにツッコまれるとは……。
「どーゆー意味だよっ!」
「くそ……っ! 強ぇな……」
 ギャグの流れを無視したニールが思わずそう漏らすと、トンヌラもにやりと笑って答えた。
「いえ、そちらこそ。予想外ですよ。もっとたいしたことないものだとばかり思っていました」
 こ、これは……! 「へへ……やるじゃねーか」「おまえもな……」と言ってお互いを認め合う友情フラグ!
「「あほかっ!」」
 怒鳴られた作者だった。
「さっきから……せっかくシリアスな雰囲気なのに、ギャグとか無理すんのやめましょーよ」
 ア、アルトちゃん……。べ、別に無理してギャグしてるわけじゃないんだからねっ!
 と、とにかく。そんなこんなで、バトルを繰り広げていたストーム(?)ら一行。
「なんで俺の名前のあとに(?)が付いてんだ!?」
 なんとなく……俺がリーダーだ! って勘違いされそうだったから……。やっぱり勇者ら一行って書き方した方がいいかしら。
「おい! 俺がリーd」
 本当にどれくらい戦っていたのか。
 あとはもうどちらかが倒れるまで戦い続けるのみだ。
「おい!!」
「それにしても、あんたらもしぶといっスねー! さっさと負けるっス。時間の無駄っス!」
 そう言いながらも、さすがに疲れている様子のキリオミ。
 ヤンが言い返す。
「なに言ってんだよ。俺はまだ全然平気だぜ? このままだと、そっちがやられちまうんじゃねーのか?」
 笑いながら答えるが、実際のところ、どちらもお互いにボロボロだった。
 なかなかにいい戦いが続く。
 ――と、そこへ、兵士が慌てた様子で広間へと入ってきた。
「大変です! 脱獄者が出ました!」
「脱獄者?」
 トンヌラが戦うのを止めて、兵士の方を向く。
「はい! 先ほどトリヤス様が連れてきた少女なのですが、どうやら、鉄格子に鍵がかかっていなかったようでして――……」
 兵士の言葉を聞いて、トンヌラはくるりとトリヤスの方へ向き直った。
 その様子に、大きくビクッと体を震わせるトリヤス。
「…………トリヤス。一体、どういうことですか……?」
 笑顔でトリヤスを見るトンヌラ。しかし、彼から発されているオーラはとても恐ろしいものだった。周りの全ての人間が真っ青な顔をして震え出してしまったくらいだ。
「すすすすすすすいませんっ!!!! え、えっと、単なるミスです……!」
「ほぅ……? 単なるミス……?」
「すいません――――――――っ!!!!!!!! 今すぐ探して捕まえてきますっ!」
 泣きながら訴えるトリヤス。
 四天王内の力関係を垣間見た気がするストーム達であった。

 急いで広間を飛び出そうと、トリヤスが扉を開けた。それと同時に、そこへ飛び込んできた人物がいた。
 そう、それこそ今まさに探しに行こうとしていた人物。そして、少し前に広間を飛び出していった人物!
「ティル!」
「シリアちゃん!」
「ああああああああああああ!!!!!!!! よかった!! 見つかってよかったぁぁ――――っ!!!!」
 いきなり泣いているトリヤスにしがみつかれるティル。
「なにこれキモイんだけど」
 当然困惑するティル。
 ニールの回し蹴りが見事トリヤスにヒットした。
「はぅっ!?」
「一体なにをやっているのよ……?」
 状況が掴めず、うんざりした表情になるシリアだった。
「シリアちゃん、戻ってきたの!?」
 アルトがシリアに尋ねる。シリアは深く頷いた。
「一体、どこへ――……?」
 アリスの問いをシリアは制止し、誰に言うでもなく呟く。
「私は、もう迷わない。お姉ちゃんを必ず救うから」
「シリア――……?」
 どこか宙を見つめるシリア。しかし、その瞳にはなにか強い意志が宿っているようだった。
 そして、今度は静かに瞼を閉じると、なにかをゆっくりと唱え始めた。それは、四天王とアルトだけは1度聞いている、あの言葉。
「シリアちゃん!」
 アルトが叫ぶ。
 その声が届いていないのか。それとも、気付かないフリをしているだけなのか。彼女は唱え続けた。
 シリアの体に光が集まっていく。幻想的な光景。もう誰もなにも言葉を発することはできなかった。
 ――しかし、彼女が呪法を唱え終えると同時に、その光は消滅してしまった。
 瞼を再びゆっくりと開け、なにも変わらぬ様子を確認すると、シリアは絶望的な表情を浮かべた。
「――……な……んで……!?」