グローリ・ワーカ   第20章:最終決戦

 かれこれ10分ほど。あの後もみんな騒いでいたが、魔王の一声で話をやめた。
「ハァ、ハァ……。まったく! おまえらには緊張感とか恐怖心とか、そういったものはないのか!?」
 魔王は肩で息をしながらも、また怒鳴った。顔には疲労の色が浮かんでいる。
「ナイナイ。こいつらには、そんなもの、絶対ナイ」
 義父が呆れ顔で手を左右に振りながら言った。
「えー。それにしてもさー、魔王がこれくらいのことで疲れてていーの?」
 ティルがツッコんだ。
 魔王は――、
「そんなの……そんなの、おまえらが悪いんだろ――!!!!」
 ……半泣きで喚く。これが……こんなのが魔王でいいのだろうか……。
「あ、あの……。す、すいません……」
 なんだか謝ってしまうティルだった。
 魔王に近付いて顔を覗き込んだ。――その時だった!
「隙ありぃぃっっ!!!!」
「え……? キャアァァァァッ!!!!」
 魔王が懐に隠し持っていたナイフを取り出した! すっかり油断していたティルは切り付けられてしまった。その勢いで横に倒れる。
「「「「「「「「ティル!!!!」」」」」」」」
 仲間たちが慌てて駆け寄る。ティルは腕に傷を負っただけで無事ではあったが、傷は深そうだ。
「油断は禁物だ」
 魔王がにやりと嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
 どうやら、先ほどのは嘘泣きだったようだ。
「ひ、卑怯者ォっ!!」
 アリスが思わず叫んだ。魔王に誠実さを求めるのもどうかと思うが。
「だっ……誰が卑怯だ!! 漫才なんかでノせるおまえらの方が卑怯で邪道だろうが!」
 とはいえ、魔王は意外とその言葉にショックを受けたようで、ものすごい勢いで言い返してくるのだった。
 が、こっちも負けじと言い返す!
「どぉっちがぁっ!! そっちの方が外道でしょ!!」
「ケッ! 卑怯で邪道なやつらめ! 邪道、邪道、邪道、邪道!!」
「あんたのが外道よぉっ!! 外道! 外道!! 外道!!!!」
「どっちがだぁ!! 邪道、邪道、邪道×100万っっ!!」
「フーン! 外道! 外道×1000億ぅぅっ!!!!」
「邪道の1兆乗ぉっっ!!」
「外道の1000兆乗っ!!」
 ――低レベルな言い争いだった! おまえたちは小学生か! とツッコミたくなる。
「あ、あの、アリさん……?」
「ヘ、ヘイズル……?」
 みんなはかなり遠く離れた場所から2人を見守っている。
「なんてーか……アリちゃんって、すごいよね……。あ、ティルちゃん、傷大丈夫?」
 マニュアが心配そうに尋ねた。ティルは頷いた。
「うん」
「あ、ティー! 回復魔法!!」
 ヒナがはっと気付いて、慌てて回復魔法を唱えようとした。その時!
「おぉっと! ディサピアランス ディジーズ!」
 義父がヒナに向かって死の呪法唱え――!
「危ない! ヒーちゃん!!」
 マニュアが真っ青になって叫ぶ。
 その叫び声に、ヒナも気付き咄嗟に魔法で防ぐ。
「ちっ」
 義父が一歩引く。
 マニュア他みんな、ほっと胸を撫で下ろした。
「はぁ……。よかった……」
「ありがとう、マーさん」
「イエイエ。私はなにも――」
 トンヌラが義父の元へと駆けていく。
 魔王や義父の攻撃を見て、自分たちもなにかしなくてはならないと思ったのか、少々焦っている様子だ。
「宰相様!! 私どももなにか」
 どうやら、マニュアの義父は宰相だったらしい。
 義父は四天王を一瞥すると、地に響くような低いトーンで呟いた。
「……フン。役立たずめが」
「え……!?」
 その直後、義父がなにかを唱えた。そして、瞬間、闇が辺りを覆った。
 静寂すら飲み込んでしまいそうな闇の中で、マニュアは胸騒ぎと息苦しさを覚えた。
「――……ミンミン……!?」
 それと同時に、突如として昔の出来事がフラッシュバックしてきたのだった。