グローリ・ワーカ   第23章:全ての祈り

(みんなの声が聴こえる……)
 それはすごく懐かしいような、愛おしいような。そんなたくさんの声が入り混じって、勇者たちにも届いた。
 たくさんの温かい声に、自然と涙がこぼれる。
 大切な者たちの声が届く。それは、世界の平和を願っているのは勇者たちだけではないこと、当たり前かもしれないことだけど、改めて気付かせてくれる。
 そして、戦っているのは勇者たちだけではない。彼女たちの後ろで、一緒に戦ってくれている。そんな気さえするのだ。

(前は、迷いがあったのかもしれない……)
 マニュアは昔を思い出した。魔王に挑んで、勝つことができなかった時のことを。
(あの時は、本当は倒したくなかったのかも……。だって、これでも、やっぱり私のお父さんで……。でも、私だって、もう迷わない。迷うことはできない。それに、私の帰りを待ってくれている人がいる。帰る場所が、この魔界以外にもあるから!!)
 顔をキッと上げた。その瞳はまっすぐで、本当に迷いなどなかった。
 今、思うことは、ただ、人間界を守りたい。大切な人を守りたい!
「………………っ!」
(私は、魔物ともっと仲良くしたくて。もっとみんなも魔物と仲良くしてほしくて、旅に出て――)
 ティルは思った。
(なんだかんだで、マーに付き合ってここまでやって来ちゃったけど……。そのおかげで、自分の真実も知ることができた。ショックなこともあったけど、今は、ここにいて良かったと思ってるよ。そして、ここから、人間と魔物との――ううん。人間界と魔界との未来に繋がっていくといいな)
 そう、未来を願った。その願いを魔法に乗せて――
「…………!!」
 そして、ストームも――
(俺は、これで有名になる!)
 と、まぁこれはこれで強い思いを抱いていた。
(俺は勇者だから! だから、世界を救ってやるぜ! それに、なんだかんだ言っても、やっぱり平和が1番いいからな!)
「…………!」
 アリスは――
(……なんでこんなことになったんだろう。私はただ、アルトを連れ戻しに来ただけだったのに……。でも、私もグローリ・ワーカだから。ここにいるから。全力で頑張るよ。そして、みんなで一緒に帰るんだから!)
「………………!」
 ニールは――
(俺は無理やりあいつに付き合わされてここまで来て、んで、俺も勇者だったって知って――……勇者か。いいよな、勇者って! ってわけで、俺は勝つ! 勇者だからな!! ……あいつはわがままだし強引でメチャクチャなやつだけど、俺らの住む人間界の為に魔王と自分の義父と戦って……。意外といいとこもあるのかもな。俺が巻き込まれたって事実は変わらないけどな)
 少し苦笑いを浮かべた。
「…………!」
 そして、アルトは、
(大変だったけど楽しい旅だったよ。私は小さい時に、洪水で流されて……でも、それも、やっと本当に助け出された気がするの。ストームのおかげ――って、うわぁぁ! まぁそれはおいときましてっ! この戦いは、私にも関係あることで。本当のお父さんやお母さんのように、人間と魔族が仲良くしていくことができたら、私も嬉しいから。……ありがとう、みんな。ここまで一緒に旅をしてくれて。ここまで連れてきてくれて)
 そう思っていた。
「……………………!」
 ヤンは、
(俺は、負けるのは嫌いだからな。特に魔王になんて、絶対勝たせてもらうぞ。暗い未来は嫌だからな。……それに、ユーにも頼まれてるからな。世界を救えって)
 双子の弟のことを考えて、穏やかな表情を浮かべた。
「…………!!」

『近づけぬ……!? 馬鹿な……私が、この力に圧されていると……!? 一体、なぜだ……!? なぜあいつらに勝てないというのだ!?』
 魔父が叫ぶ。
 ピュウはそんな魔父に告げた。
「それは、戦っているのが、彼女たちだけではないからだ」
『……なにを言っている……!?』
「人間界に住む者たち、全ての思いが、声が、勇者と共に戦っている。全ての祈りが、強い願いが、彼女たちと共にあるのだ」
(そして――)
 ピュウは瞼を閉じて思う。
(――当然、彼女たちも。勇気、強い意志、旅の中で育んできた強い団結力、未来への希望。そして、誰かへの思い。その気持ちが、彼女たちを強くしてくれる。だから、彼女たちは絶対に負けない!)
 ピュウは信じていた。グローリ・ワーカが、みんなが、きっと作り上げていくだろう素晴らしい未来を――
 あとは、しっかりと目を開けて、この戦いの行く末を見守った。