グローリ・ワーカ   第24章:そしてこれから

 奇跡はそれだけでは終わらなかった。
「あれ……?」
「一体、なにが……?」
 蘇ったのは四天王も同じだった。
「ミンミン!!」
「トンヌラ……! トリヤスに――」
「ゲ……。キリオミも……」
 最後の心底嫌そうな発言は、アリスによるものである。
「…………ミリア! って、なにが起こったの!?」
「あの時――呪法で、消された……?」
「そうですよ! あれは消滅の呪法! 私たちは宰相様に消されたはずです!」
「でも生きてるっス!」
 四天王自身も、自分たちが生き返ったことに驚く。
 義父は死ぬ時に、四天王に対しても復活の呪法を使ったのだろうか?
「――そうじゃない。お義父さん、みんなを本気で殺す気なんてなかったんだ」
 マニュアが言う。みんなは「?」を浮かべている。
 トンヌラだけ理解したらしく、マニュアの続きを言った。
「――消滅の呪法は、術者の技量や気持ちによってもその威力は変化する……。宰相様の技量は問題ない。となれば、宰相様の気持ちでは殺すつもりはなかったと?」
「そうだよ」
 マニュアが迷いなく頷く。
 が、トンヌラは馬鹿にしたような表情をして、
「にわかには信じられません。大体、私たちを生かす理由はなんですか。必要ないと判断されたから、私たちは殺されたのでしょう?」
 そう言う。
「……トンヌラには、一生分からないのかもね」
 トンヌラの言葉に、マニュアは少し寂しそうな顔をして言った。
「本当に殺すつもりなら、最初から死の呪法を使ってるよ。わざわざ消滅の呪法なんて使わない。でも、消滅の呪法だって、本気で使えば永遠に消し去ることはできる。それなのに、今四天王は生きてる。だから、それが真実でしょ?」
 それでも、トンヌラは腑に落ちない様子でいた。
「ん? つまり??」
 そして、難しいことが理解できない人には、やはり分からなかった。
「ストーム……。だからぁ〜……はぁ、もぉいーや」
 マニュアは諦めてため息を吐き、それから今度はミンミンの方に向き直った。
「……ミンミン……」
「な、なによ……」
「……約束、破ってゴメン!! 思い出したよ、小さい頃の約束。どこにも行かないって言ったのに……。私、人間界に逃げちゃったんだ……。本当に、ごめんなさい!」
 深く頭を下げ、それから、マニュアはしっかりとミンミンの瞳を見た。
 もう逃げない。ここでミンミンに許してもらえなくても、ここでミンミンに殺されるとしても。
「――……もういいわよ」
 そんな様子のマニュアを見て、ミンミンは観念したように小さくため息を吐いた。
「もういいわ、小さい頃の約束なんて。大体、無理があったのよ。あんたが人間界に行かないなんてことが、できるわけもなかった。だって、あんたのお義母さんは、あんなに人間界を愛していたんだもの。――いえ、違うわね。あの人は、魔界も愛してくれていたのよね。だって、あんたのお義母さん、人間だったのに、魔界まで来て、あんたのお義父さんと結婚して……魔族も愛して、人間も愛して――そんな人に育てられたんだもの。そんな人の娘なんだから、あんたが人間界に行くのはおかしくなかったのよ」
 今度は少しだけ微笑んで、そう言った。
 ――一方、マニュアは……呆然としていた。
「え……? あ、あの……ミンミンさん? 今、なん……て?」
「え?『人間界に行くのはおかしくなかった』って」
「違う! その前!! お、お義母さんが――に、人間……!?」
「? そうよ?」
「ハイ――――――――ッ!!??」
 ミンミンのさらりとした返事に、マニュアは飛び跳ねて驚いた。
「――って、まさか、あんた……知らなかったんじゃないでしょーね?」
「知るかい、そんなこと!! 誰も言ってなかったじゃん!」
「アホか――――っ!? 普通気配で分かるでしょ!?」
「そうだけど……え、えぇ!?」
(ってことは、ちょい待ち! お義父さんは人間を愛してたってこと!? え? ってことは、シリアはハーフなの!? って、そう思ってみれば、シリアから人間の血の気配も感じるし! ちょっとマジかよ!? マジなのか!? 今まで魔族だって思い込んでたから、気付かなかった…………ッ!!)
 マニュア、大混乱中。
 とにかく、頭を落ち着けて……。
「ま、まぁ、それは置いといて……。ミンミン……それはつまり、許してくれるの?」
 少し不安そうに尋ねる。
 ミンミンの答えは――
「――……いいって言ってんでしょ、もう!」
「――ミンミンっ!」
 マニュアは泣き笑いでミンミンに飛びついた。ミンミンも、泣き出した。
 ――許したから、許されたから。だからといって、もう昔のようにも戻れないだろう。けれど、過去には戻れなくても、未来には進める。これからまた新しい関係を、新しい思い出を作っていけばいい……――マニュアは、そう思っていた。

「結局よー」
 その様子を眺めていたストームが呆れ果てたように言った。
「俺たち、あいつの家族や友達のケンカに巻き込まれただけじゃね?」
「あーそうだな」
 ヤンが苦笑いを浮かべて答える。
「んー……でも、まぁよかったんじゃない? 平和が1番だよ!」
 ティルが言った。それにアルトやアリスも、
「そうですね。人間界も救うことができたし」
「一石二鳥ってことにしときましょ」
「大団円、ですね」
 そんなことを和気藹々と話している。
 ニールはマニュアの頭を軽くこつんと叩いて言った。
「よかったな」
「……うん! ありがとう、みんな」
 みんなにお礼を言って、マニュアはとびきりの笑顔を見せた。