グローリ・ワーカ   第2章:災難

「……凄いね……。前に来た、あの冒険者達とは違う……」
 目の前で起きた出来事に、リナがぽつりと呟いた。
 地獄耳マニュアはそれを聞き逃さず――
「なに!?『あの冒険者達』って、誰のこと!?」
「き、聞こえてたのっ!?」
 詰め寄るマニュアに驚くリナ。
 マニュアは人差し指を立て、ちっちっちっとポーズをすると。
「地獄耳マニュアちゃんを甘く見ちゃいけません。部屋の端から端まで、その真反対にいる人の声まで聞き取れるんだから!」
「そ、そうなんだ。凄いね……ι」
「で、昔、あの町でなにかあったの? なんであんなに冒険者を毛嫌いしてるわけ? それって、もしかして『あの冒険者達』とかゆーのに関係してるの?」
 マニュアの言葉に、リナは俯いた。
 そして……ゆっくりと頷いた。
「……なにが、あったの?」
 ティルが静かに訊くと、リナはこの町で起こった過去の出来事をゆっくりと語り始めた――
 この町の住人が冒険者を嫌っている理由。それには、悲しいわけがあった……。

 それは、およそ10年前のこと――
 森の中にある町はいつも平和に暮らしていた。それは、人々も魔物も、お互いの住む領域を侵害せずにいたからだ。
 しかし、ある日。外から来た冒険者によって、それは崩れてしまった。
 迷いの森と呼ばれるこの森で、冒険者達は暴れた。
 それに怒った魔物達が、町に襲いかかってきたのだ!!
 襲いかかってきた魔物は水に弱かったため、それを知っていた冒険者はその魔物に向かって水の魔法を放った。
 冒険者達は強かった。その力で、魔物達を一掃した。……だが、力が強すぎたのだ。
 強力な水の魔法は、魔物を含め、人を――町の一部を飲み込んだ。
 人々は叫び、もがき苦しみ、いくらかはどこかへと流されてしまった。
 残された人はなすすべもなく、ただただその光景に耐えていた……。
 ――そして、今も。そのときの出来事はトラウマとして町の人々の胸から消えることはなく、冒険者の姿に怯えているのだった。

「今は、町に住む強大な魔力を持った魔法使いのおかげで、強力な結界を張っているから――魔物が襲ってくることはないんだけどね」
 その話を聞いた3人の反応は――
「……かわいそう……」
「それじゃぁ……冒険者を嫌ってても、しょーがねーな……」
「ってかさー。まず、なんでこんな場所に町を作ったのかってのが問題だよね?」
 1人だけKY(空気読めない)マニュア。そーゆーとこをツッコんじゃいけませんよ……。
「それは、ずっと昔からある町だから。最初に作った人に訊いて……ι」
 リナはそれに苦笑いを浮かべ、
「――とまぁ、そんなことがあってから、この町のみんなは冒険者を嫌うようになっちゃったんだよね……」
 それから少し寂しそうにそう言った。
「リナちゃん……。そのわりに、君は私達に声をかけてくれたよねぇ……。なぜ? 君は冒険者が怖くないの?」
 おもわず疑問に思ったことを口にしてしまった。それを言えば、もしかしたらリナはもう近付いてきてくれないのかもしれないけれど。
 だが、マニュアの問いに、リナは微笑んだ。
「……私は、いつまでも冒険者を嫌ってちゃいけないと思うんだ。だって、あの人達とあなた達は違うでしょ?」
「…………そっか」
 まぁそーだよねー。まだまだヨワヨワの冒険者だしー。しかも、ついこの間まで職業もわかんなかったような人だし〜。
「だぁっ!! ナレーション! ウルサイなぁっっ!!」
 しんみりした空気を壊すように、マニュアは文句を言った。
 そんな様子に、リナは笑って言う。
「そーですよ。ホワちゃん達は強い――というか、凄いですよ」
「そうそう。ってか『ホワちゃん』って、私のことか?」
「そーだよ? ホワイトのホワちゃん」
「あー……そう」
 ――リナちゃん。こんな子、庇わなくてもいいのに……。あぁ、でも、ティルちゃんはたしかに凄いかもしれないけど。
「なんだとー!? 私は!?」
「って、オイ! ナレーション! 俺だって、凄いゾ!!」
 ストーム。君のどこらへんが凄いんだい? っていうか、今まで活躍を見た記憶がない。
「ムキィ――――――ッ!!!!!! おまえ、ムカツクな!」
「まったくだ――――――――っ!!!!!!」
「あは……あはははは……」
 そんなマニュア、ストーム(+ナレーション)のやり取りに、苦笑いを浮かべるティル。
 リナのほうは、ほんとうに楽しそうに、その様子を見つめていた。
 ……それはともかく。そろそろリナの家に行こうよ。