ひので町コント   3丁目:大輝くん

 3丁目に住む大輝(だいき)くん。
 今日は創立記念日で学校はお休み。どうせだからゆっくり寝ようと思っていたのだけど――。

 プルルルルプルルルル……!

 いまどき珍しく着うたを設定していない大輝の携帯が鳴った。

「ほっとけ!」

 ピッ。

「はい、もしもし?」

『あー……大輝? 父さんだが……』

「あぁ、父さん。どうしたの?」

『父さん、倒産した……』

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

『嘘だ。オヤジギャグだ』

「殴るぞ」

『家庭内暴力反対』

「いいから要件をさっさと言え――――――!!」

 話が進まなかった。


『父さんなぁ、重要書類を家に忘れちゃったんだ』

「えー? ちゃんと持ってけよ。まさか、届けろって言うんじゃ……」

『それがないとなぁ、父さん、本当に倒産しちゃうんだ。今度はオヤジギャグじゃないぞ』

「えぇぇぇぇぇ!!??」

『で、その書類なんだがなぁ……』

「うん」

『玄関から歩いて10歩のところを右に曲がり、まっすぐ行って、突き当りの右手にあるドアを開き、視界の1番端に映る戸棚の下に鍵が隠されているので、まずそれを手に入れて』

「なんで鍵を隠してるんだー!? ていうか分かりにくいわ!!!!」

『そして回れ右をしてまっすぐ歩いて、1番最初に右手にくる棚の上から3段目の引き出しの中の右奥角に次の鍵が』

「いくつ鍵あるんだ――――――!?」

 以下略。


「見つかるまでにメチャクチャ時間かかったじゃねーか!」

『まぁそういうわけで、9時までに父さんの会社まで届けてくれ』

「えぇぇ!? 9時って、あと1時間もないぞ!?」

『大輝! 会社の運命はお前にかかってるんだ!!』

「会社まで1時間かかるじゃねーか!!」

『頼んだぞ、大輝……』

「聞け――――――!!」


 結局、特急を使って会社のある駅まで行くこととなった。
 今ならまだギリギリ間に合う。

 駅に着き、特急に飛び乗る。
 特急は間もなく発車した。

≪本日は○×線特急ひので365号をご利用いただきまして、まことにありがとうございます――≫

 ぼけーっとしながらアナウンスを聞く大輝。

≪さて、この番組も始まって今週で記念すべき第100回を迎えます! DJは本日もワタクシ、車掌20号がお送りします!≫

 ――は?

≪では、まずはお便りからいってみましょう! 東京都に住むPN『スカーレット・小腹』さん! えー、「最近、彼氏がかまってくれません。やはり、太ってきたのがいけないのでしょうか? 車掌さん、アドバイスください」。いやー深刻な問題ですね!≫

「なんでラジオ番組みたくなってんだよ!? しかも100回もやってるのかー!?」

≪さて、次のお便りです。PN『父さんが倒産寸前』さんから! 「最近、うちの息子がかまってくれません。父さん、倒産したとオヤジギャグを言ったところ、殴るぞと返されました。これは家庭内暴力でしょうか? いつ切れられるか不安です。また、息子が楽しんでくれるようにと、大切な鍵をいろいろな場所に隠してみたら怒られました。もう息子はどうしようもないのでしょうか」≫

「って、父さんじゃねーか!!!!!!」

≪うわー。これはひどい息子さんですねー≫

「ひどくねーよ!!!!」


≪では、大人気! 次のコーナー≫

「もういいよ……」

≪クイズ! マジカルトレイン! 今からクイズを出しますので、分かった方はお手元のボタンを押して答えてくださいねー!≫

「って、マジでボタンあるんだー!?」

≪3号車の前から6列目、左から2つ目の席に座っている乗客のフルネームは!?≫

「俺じゃねーか!!!!!!!!」


 ピンポンパンポーン♪

「お。駅にでも着いたか?」

≪迷子のお知らせです≫

「電車なのに迷子いるのかー!?」


 ピンポンパンポーン♪

≪ご乗車ありがとうございます。次は×△駅ー。お降りの方はお手元のボタンを押して――≫

「ここはバスか!?」

≪――クイズに答えてください≫

「どうしてもクイズに答えさせたいのか――!?」


 紆余曲折あったものの、なんとか駅に到着した。時間は9時少し前だ。

 とりあえず、会社に着いたら――。

 ――やっぱり父さんを殴ろうと思った大輝だった。