――私は、なんて無力なんだろう……。

 満月の綺麗な夜だった。
 一人の少女が、草むらに座って、月を眺めていた。
 月は明るく少女を照らし出す。
 それとは対照的に、彼女の表情は暗かった。
 今にも零れ落ちそうな涙を、必死に堪えようとしている姿が痛々しい。

 彼女は、大切なものを失ったばかりだった。
 大切なものが……彼が居たからこそ、彼女はこの辛い世界で生きてこれたのに。君と居ることが、心の底から楽しかった。誰に止められても、私は君と居たかった。

 それなのに……彼が、いなくなってしまった。

 彼女は視線を落とした。

 救いたかった。彼を救ってあげたかった。
 何も出来なかった自分が悔しい……!
 たとえ、それが運命だからといって、簡単に納得できない。
 失ってしまった大切な人。私は、君に何をしてあげられた?
 与えられるだけだった気がして。何かしてあげたくても、君はもう居ないのに。

 変わらず明るく照らす月。
 ふと、彼女が再び顔を上げた。

「月見草……」

 セピアの情景で、少年が言った言葉。
「月見草って、好きだな、俺」
 その少年に、少女が尋ねる。
「月見草? 何で?」
「遠くにある月に、届かない想いを抱いて、いつも見つめ続けてる……。
 そんな月見草って、何だか、いじらしくて可愛いじゃん」
「――あ、案外、ロマンチストなんだね……」
「な……! 何だよ!? 悪いかよ!?」
 顔を赤くして怒る少年に、少女は笑いながら謝った。

 少年を失った少女――。
 彼女が、月を見上げて呟いた。
「月見草……か…………」

 遠くに居る君に、届かない想いを抱いて――……。

「私は、無力だね……今まで、君に何もしてあげられなかった……何も出来なかった……。
 ……でも。
 何も出来ないかもしれないけど、出来る何かを見つけたい」

 そして、彼女は、月見草の種を買った。それを、彼の眠る大地の上に蒔いた。
 彼の好きだった花を……。

 君が寂しくないように。
 君の好きな花と一緒に……。
 それが、今、私の出来る精一杯だから。

 それから、彼女は、ゆっくりその地から離れた…………。

「サヨウナラ……」

 今夜も。静かに、白く、温かく輝く月は、悲しみを癒すかのように、励ますかのように、歩き出した少女の背中を照らしていた。




 はい。後書です。
 前のサイトでもアップしていた作品です。一部微妙に修正しました。
 どれかのストーリーのどれかのキャラクターのお話なわけですが、実は、そのストーリーはまだアップしていなかったりします……。
 そのうち頑張って上げますので、気付いたら密かにニヤッとしてください。
 でも、折角なので反転でネタバレを↓に仕込んでおきます。

PIECES+ 柳絵夢

――――2008/02/24 川柳えむ