グローリ・ワーカ   第12章:タイムリミット24時間

「どーゆーこと!? 扉を開くって――なんなの? 死ぬの!?」
 至極当然のことをティルは驚きながらも尋ねた。
 シリアは続ける。
「この魔界から人間界、人間界から魔界を行き来できるように、霊界とも行き来ができるということです」
「な、なるほど」
 ポン、と手を叩く。
「霊界へ行き、姉さんの魂を呼び戻します!」
「そうなると、誰でも死人を助けられるんじゃん?」
 ストームの言葉に、シリアは首を振ると、
「さっきも言ったとおり、姉さんの場合は体がまったく無事だからです。事故や病気なら体が使えませんから」
「あ、そっか」
「そして、先ほど言ったとおり、霊界へ助けに行くには、あなたたちの体に負担がかかってしまいます」
「それは――」
 アリスの言葉を遮って、シリアは続ける。
「霊界へ行くということは、体から魂を抜くということ。魂だけが霊界への扉をくぐることができます。その間は体が空っぽになってしまい、死んだのと同じ状態になります」
「つまり?」
「死んでしまったので、徐々に体が腐り始めます」
「「「「「「え゛…………」」」」」」
 しーん……。
 この危なさに気付き、全員が沈黙してしまった。
「……おそらく、その状態で24時間が限度。それを超えると戻ってこれなくなる可能性があります」
「それって……体が完全に死んじゃうってことよね……?」
 おそるおそるアリスが尋ねる。
 シリアはゆっくりと頷いた。
「ちょ、ちょっと作戦会議だ」
 ヤンが手を上げて、みんなが集まる。
 6人でぼそぼそと相談が始まった。
「マジかよ!」
「ちょっとちょっと。ヤバイんじゃない?」
「リーダー迎えにっても――さすがに……なぁ……」
「でも、このまま負けるのもやべーよ」
「マーを助けに行きたいけど――」
「ちょっと怖いですね……」
 怖気づいていた。
「あのー……」
 シリアが後ろから声をかける。
 6人は慌てて、
「は、はい!? なに!?」
「あの――助けに行くのに、ティルとアルトさんに行ってもらいたいんです」
 はっきりと指名され、驚く2人。
「え? なんで?」
「私たちっすか?」
「――2人は魔族の血を引く者。もし――姉さんを見つけられないことがあっても、きっと、魔族の血が流れた者2人でなら、こちらへの扉を開き戻ってくることができるはず」
「もし……マニュアちゃんを見つけられなかったら……」
 その言葉に、なぜだか、マニュアがふざけて笑う姿がふと思い出された。
 ティルは首を横に振り、
「絶対――絶対に、マニュアちゃんを見つけてくる! 3人で帰ってくるから!」
 その力強い言葉に、シリアは安堵して微笑んだ。
「――では、2人に扉を開く呪法を教えます」

「「っていうか、いつまで話しとるか――――!!!!」」
 魔王とミリアがキレた。
「すっかり忘れてた!」
 アリスが慌てて扇子を構える。男陣も戦闘態勢に入った。
 その後ろでは、シリアが2人に呪法をレクチャーしている。
「……で、ここをこう変えると人間界に、こっちが魔界ね。もしも座標を指定したいなら、最後に、こう付け加えると――」
「うーん。難しいよぉー……」
「ここの座標は?」
「ここがこうで、これです。ですので、もし戻ってくる場合は、ここをこうして、最後にこう」
「メモしなきゃ」
 どこからか持ってきた本を見せながら、シリアは真剣に説明をしていた。
「ていうか、シリア!! なんでそっちの味方をしておるか!」
「戻ってきなさい、私のシリア。――そんなことをして、死にたいの?」
 魔王が、そしてミリアが、シリアに向かって声をかける。
 その言葉に、シリアは2人の方を向くと、真剣な眼差しで告げた。
「私のお姉ちゃんは、優しいの。優しくて、それで悩んでしまって――。すべては許せないけれど、みんなに愛されてるお姉ちゃんは、きっと、戻ってくるべき人なんだと思う」
「なら、あなたも死になさい! せっかく、私たちみんなで幸せに暮らせたはずなのにね!」
 その次の瞬間、ミリアは強力な呪法を放ってきた!
「ダークネス ナイトメア ディスペア ルーイン アクション!」
 突風が巻き起こる。部屋の壁には亀裂が走った。
「くっ……!」
 更に、魔王がどこからか魔物の群れを呼び出したようだ。気付けば多くの魔物に囲まれている。
「早く! 行って!」
 シリアが叫び声に近い声を上げる。
 おもわず、びくっとすくみ上がる2人。
 そんな2人に向かって、シリアは1つの石を投げた。それは、マニュアが持っていたペンダントや、魔物が首から提げていたあの声のする石と同じものだった。
「エレクトロマグネティッククリスタルと呼ばれる魔界の道具です。遠く離れた者とも会話ができます。24時間経つ前に、そこからお知らせします」
 ティルは深く頷くと、
「必ず、一緒に戻ってくるから。任せて」
「俺たちが魔物と戦って、お前らの体を守ってやるよ!」
 ニールがまっすぐ魔物を見据えたまま言った。
「その間に、リーダーを連れて戻ってこいよな」
 ヤンが2人に向かって言った。
「おみやげよろしく。じゃなかった、気をつけてね!」
 アリスがボケを交えながら言ってくれた。
「アルト、ティル。また後でな!」
 ストームが2人を見て笑った。
「うん。……ねぇ、ストーム」
 ティルがストームに向かって一声かける。
「? なんだ?」
 きょとんとしたストームの顔を見て、ティルは静かに首を振った。
「ううん。なんでもない……。じゃあ、行ってくるね!」
「行ってきます!」
 そして、2人は声を重ねた。その言葉はまるで生き物のようにうねり、2人の前に穴を作り出す。
 その様子を見守るシリア。
 出来上がった扉(穴)の前、2人は顔を見合わせ力強く頷くと、あの世と呼ばれる世界へと飛び出した。
 そこには、2人の空っぽの体だけが残された。それはまるで眠っているようだった。