グローリ・ワーカ   第14章:ある占い師との約束

「――そう。そうか……」
「…………」
 沈黙が訪れる。マニュアは宙を見つめ、
「……でも、これは、絶対に来るとは限らないんだよね?」
「そうだよ! だから――」
 マリアがなにか言おうとしたのを遮るように、マニュアは勢いよく立ち上がると、
「よしっ! 頑張ろ!」
「マー……」
 なにか言いたげなマリアの顔をマニュアは振り返りにこりと笑った。
「ありがとう。マリアちゃん」
「え?」
「未来はなににでも変えられるって教えてくれて。大丈夫だよっ! 人間は滅ぼさせやしないっ!! 1回くらいの、過ちで……私は……諦めないっ!」
 マニュアがなんだか顔に似合わずカッコイイことを言う。天に向かって拳を突き上げた。
「おいこら待てぇ! 顔に似合わずってどーゆーことだぁ!!」
 はて?
「おい!」
「……そうね」
 マリアが頷いた。
「って、えぇ!? マリアちゃあん!?」
 マニュアが今度は泣きそうな顔で振り返る。
 マリアは慌てて、
「いや、そうじゃなくて! ――昨夜、夢を見たの。7人が暗闇の中、別れ道の前にいました」
「はい? いきなりなんの話?」
 マリアが語り出した。マニュアの頭には「?」が浮かんでいる。
「どちらの道も先はよく見えない。片方の道はまっすぐに伸びているけれど、道の先に続く闇はとても深そう。もう片方の道は、ごつごつとした大きな石が足元にたくさん転がっていたり、脇から伸びている草が通行を邪魔しそうだけれど、道の先の闇は少し晴れているみたい。……7人はどちらへ進むか迷っていたけれど、でも、最後に選んだ道は――」
「――選んだ道は?」
 マニュアが尋ねると、マリアは笑った。
「――この先は、あなたたちが作り上げて行く夢よ! マー!」
 そう言ってドーンとマニュアの背中を叩く。
「え? え? なんだなんだぁ?」
 マニュアはやっぱりなんだかよくわからなかった。
 でも――励まされた気がする。
「ん。ありがとう」
「人間も魔族も、人生なんてそんなものなのよ。今簡単な道を選んでその先はどんなものでも気にしないのか。それとも、道のりは険しい道を選んでその先に待つものに希望を持っていくか」
 自分は完全に前者の人間だ。もうだめだ。
「おいおい……」
「どちらがいいかなんて、それはその人次第。でも、マーが今見てるのは足元じゃないんだよね」
「そりゃぁそうだ! だからよく転ぶんだ!」
 自分で……。って、なんの話をしてるか、なんの。
 けれど、たしかにマニュアはよく転ぶ。実際、買い物に行って買ってる薬草のうちの半分はマニュアが転んで怪我をしたことによって使われていた。
「って、ぎゃ――――――――!! それをばらすなああぁぁぁぁ!! そ、それに半分も使ってないもん。3分の1くらいだもん!」
 あまり変わらないってか威張れない。
「うわーん!」
 騒いでる後ろで、マリアが小さく咳払いをした。そしてマニュアに向かって、
「――この世界の未来は、今、マーが握っているんだよ。頑張ってね」
 静かに微笑みながらさらりと言った。さり気なくとんでもないプレッシャーだ!
「う……。が、頑張るヨー!」
 無理やりテンションを上げて、再び拳を突き上げた。