グローリ・ワーカ   第16章:Live or Die

 ところ変わって――。
「私は悲しみの少女アルト……。そう、私はあの高く広ーい空を飛ぶの……、悲劇と共に……。あの、白い雲と一緒にふわふわー……」
「うをぉーい! アルトォ――――ッ!?」
 ストーム&アルトVSミンミン戦。アルトは相変わらず壊れている模様です。
「ア、アルトォ!! こいつは水を使うんだゾー! それに対抗できるのは……たぶん、強力な火! アルト、火を使えー! 水を降らすことのできるおまえなら……」
「あ、無理です」
 ストームの言葉に、アルトはあっさりはっきりきっぱり断った。
「えぇぇぇぇ!? な、なんでだよっ!」
 ストームが、怒り、困惑、疑問、焦りを交えて訴えた。
 しかし、アルトはいたって冷静にそれに答えた。
「狩人の使う魔法付加は、自然と深い繋がりがあるのです。魔法を使うのに、そこにある自然やその場の環境から力を借りているの。たとえば周辺にある湖の水や、木に絡みつく蔦なんかから。だから、そこにないものは使うことができない。火を使うなら、近くで誰か火を使っている人でもいない限り使えないのです」
「そ、そーなのか!」
 ガ――ン……。
 2人に勝つ見込みがなくなった……。
「え、いや、そこまでは言ってねーゾっ! 俺が負けるわけねーよ!」
 役立たずなストームだった!
「聞けよ!!」
「まぁでも普通に攻撃はできますから」
 そう言って、アルトは弓矢を構えてそれを放った。
「なんの!」
 ミンミンはそれをひらりとかわす。
「ちくしょー! 俺も攻撃だ! 剣3本一気投げ!」
 ストームも、なんとなく懐かしい技を繰り出した!
 ミンミンが呪法を唱える。
「フラッド トルネード!」
「あっ! お、俺の剣が!!」
 ストームの投げた短剣はあっという間に呪法で出された水の渦に巻き込まれた。かと思うと、今度はストームの頭上から真っ逆さまに落ちて――、
「う、うわああああああ!!」
 キィン!!
 ストームの叫び声と共に、短剣はなにかの力に跳ね返された。――これが、勇者の加護なのだろう。
「ああああ危ねぇ――――!!」
「うわああん! ストームくんっ! やめてくださいぃ!」
 危険は回避したが、心臓はバクバクだ。
「って、甘いわ!」
 そう声を上げたミンミンが短剣を投げつけた。
 しかし、今度はストーム、余裕そうに、
「勇者の俺様には神の加護が付いている!」
 グサッ!
 …………その短剣は、見事にストームの頭に突き刺さりましたとさ……。
 ブシュ――――――――。
「え、ぶ、ブシューっ……? って……。す、ストームうぅぅッ!!!!」
 その短剣が突き刺さった先からは、まるで噴水のように血が吹き出て――、
 バタ!
 ――……ストームは死んだ……かも……。
「えぇぇぇぇ!? ふ、噴血ぃ――――――っっ!!?? ス、ストーム――――ッ!!!!」
 もう間抜けすぎて涙も出ない。
「あ、あらら……? 柔な男ね。もう死んだのかしら……?」
 つんつん。
 あまりにもあっさりすぎて、ミンミンもマンガのような汗を掻きながら、どこからか取り出した枝で刺してみた。が、ピクリとも動かない。ストームは顔面蒼白になって、ただ頭から血を流しているだけ。
 ――ストーム・カーキー。出血多量でご臨終?
「ええええええ!!?? う、うそっ!! うそでしょお!?」
「えー。まさかこんなにあっさり倒せるなんて、ここの研究ってすごいのねぇ」
 そう、その短剣はまさに、ここで作られた賢者の石でできたものだったのだ。
「ちょっとぉ!! 嘘でしょ、嘘!! ストーム! 起きてよ!! ねぇ! 死なないで……! ストー……ムゥ……」
 ストームの傍へ駆け寄り、溢れそうな涙を必死に堪えながら声をかける。今まで旅をしてきた数々の思い出が、アルトの頭をフラッシュバックしていった。
 ミンミンはいたずらでも思いついた子供のような顔で、そんな状態のアルトに告げた。
「まぁこいつが死んだのも、あんたが1度捕まったせいなのよね」
「え……?」
 その言葉に、驚いて振り返る。
 ミンミンは満足そうに続けた。
「勇者の子孫であるあんたを捕まえたとき、あんたから血を採取したのよ。その血を研究に使った結果、できたのが賢者の石。賢者の石は勇者に与えられた加護すら関係なんてないのよ。そして、この賢者の石で作られたのがこの短剣。――そう、あんたの血のおかげで、あんたたち仲間を死に追いやることのできるものを作ることができたの」
「――――! そんな……!」
 ショックを受けたその表情を見て、ミンミンはさらに楽しそうに声を張り上げた。
「もうあんたたちなんて怖くないわよ! これで簡単にやっつけてあげ――」
 シュッ……ドッ!!
「――え?」
 鈍い音と共に、なにか体に衝撃を感じてミンミンは目を見開いた。
 自分の肩にゆっくりと目をやると、そこには1本の矢が深く突き刺さっていた。
「え……? きゃああああああああ!!!!」
 驚き、慌ててそれを引っこ抜く。すると、その傷口から血が大量に溢れ出てきた。
「なっ……、な、なん……っ!!」
「許さない……!」
 アルトが静かな怒りを込めて、言葉を吐き出した。
「絶対に許さない! 血を採ってそこに謎の金属片を埋め込んだなんてー!」
「一っっ言も言ってね――――――――!!」
 予想外の言葉に、血圧も上がり余計に血が吹き出たという。
「お、恐ろしい! いったいなにをするつもりなんですか! あぁ、記憶を消されて金属片埋め込まれて行動を監視されて今度は実験にでも使われるなんて……!」
「ちょっと待てぃ!! べつに金属片埋め込んでないし、ただ研究に血を使っただけだって……人の話聞いてるの!? ねぇちょっと!」
「もう絶対に許しませんから! お願い! 誰か、火を使っていて……そう、サンドとか! アロー・バーン・スパーク!!」
 そう叫んでアルトが矢を放つと、その矢の先に火が灯った。どうやら、誰かが火を使っていたらしい。その矢はまっすぐにミンミンの喉元めがけて飛んでいった。
「きゃあっ!」
 慌ててそれを払い落とそうとしたものの、今度は先に灯った火が弾けてミンミンの体を包み込んだ!
「あっつ――!! な、なによこれ! 燃えるじゃないの!」
「あたりまえっ! あなたを倒すために使ったんだから!!」
 恐ろしや。危険極まりない女同士の本気の戦いが始まった。
 というか、忘れ去られているストームだった。ひどい話である。