グローリ・ワーカ   第17章:カタストロフィ

 さてそろそろ。ぶっ飛ばされているキリオミはどうなったのかというと――まだアリスにぶっ飛ばされているのだった。
「もー! サンドをどーする気なの!?」
 ドカッ!!
「うぎゃん!」
「いいかげん放してあげてよね!」
 バキッ!
「ひぎゃあっ!」
「えぇ!? なにかまともなこと言ったらどーなの!?」
 ドバシィッ!!
「ふぎゃ――っ!!」
 キリオミはかなり遠くまで吹っ飛ばされてしまいましたと。
 ――それを間近で見ていたヤンは、
(お、女って怒らすとこえぇ……。俺も気を付けよう……)
 そう心に誓うのだった。
「くぅ〜〜っ!! いいかげんにしろっス! このアマァ〜!!」
 キリオミがとうとう切れた。
「きゃー! あら、怒っちゃった?」
「さっきからずっと怒ってるっス!! まともなことも言えないっスよ!」
 キリオミはヒリヒリと痛むぷくりと膨れたたんこぶを撫でながら怒鳴った。
「おまえはオイラを本気で怒らせたっス! もーこうなったら、おまえにも! エア バインド!」
「きゃっ!」
 ヤンへかけた呪法と同じものをアリスにもかける。アリスも動けなくなってしまった。
「さて、と……っス」
 キリオミが動けなくなった2人を見回して、大きく息を吸い込んでから嘲笑を浮かべた。
「どっちから殺るっスか……?」
 瞳に冷たい光を浮かべて、ヤンとアリス、2人の顔を交互に見た。そして――、
「……やっぱ、オイラは女から殺るのは好かないっス。だからここは男から――」
「ファイアー」
 ボウッ!
 キリオミがヤンに近寄ったその瞬間、ヤンが魔法を発動した。キリオミは顔面へまともに火をくらってしまった。
「う……。ど、どーして……っス……?」
「あのなぁ、魔法は文が読めれば動かなくても使えるんだよ」
 ヤンが言った。
 魔法を使うために印を結んだり、円を描いたりなど、特にそういう動作は必要ない。魔法が理解できていれば唱えるだけで発動するのだ。
「しまったっス! 1本取られたってカンジっス!」
 キリオミがまっくろこげの顔で悔しそうに言う。
「もういいっス! こーなったら普通の呪法使うっス!」
「なにっ!? 使えるのかっ!?」
「あたりまえっス! フィア エイク ヴァイオレンス ペイン!」
「なっ……!! ……ぐわっ……! な、なんだっ……!?」
 キリオミが呪法を唱えると、ヤンは呻き出してしまった。
 これは、前にシリアがマニュアに使ったのと同じ(第10章参照)苦痛の呪法で、直接神経細胞を収縮させることによって痛みを与えるものである。
「サンド!!」
 アリスが叫ぶ。
 が、ヤンは誰かの声を聞き取る余裕もなく、絶えず苦しんでいるだけ。それでも反撃のため、必死に魔法を組み立てようとするが、とても集中できる状態ではなかった。
「くそっ……! ま、魔法……を……。ぐあぁ……っ!!」
「サンドォ――――ッ!!」
「苦しみながら死ぬといいっス! ……いや、もっと痛めつけてやるっス! ガスト ソード!!」
 突風が刃のようにヤンを切り裂く。体のあちこちから血が流れた。
「ぐわっ!!」
「サ、サンドォッ!!」
「フフフ……」
 それを何度も繰り返すキリオミ。
 苦痛の呪法でただでさえ痛いというのに、さらにこの攻撃も加わり――ヤンはもうボロボロである。
「やめてやめてやめてぇ――――――――!」
 アリスが力の限り叫ぶ。
 すると、キリオミはぴたりと攻撃の手を止め、アリスのほうを振り返った。
「……まぁ、かわいそうだから、そろそろ楽にしてやるっスか」
 そう言うと、唇の端を持ち上げて笑った。
「キ、キリオミ!! なにをする気なの!? やめてっ!!!!」
 アリスは地の底から這い上がってくるような、今までにない恐怖を感じた。
 キリオミは厭な笑顔を浮かべたまま、言い放った。
「オイラたちに逆らったやつらは――こうなるんス!」
「やめてええええぇぇぇぇぇぇ――――――――!!!!」