グローリ・ワーカ   第17章:カタストロフィ

「違いますっ! 私はただ、仲間を殺されたから怒っているだけですよ!」
 ようやくアルトが動き出した。
 ミンミンはため息を吐いた。
「やっと金属片って言わなくなったわね――じゃなくて。仲間を殺されたからねぇ……。私には、どう見てもあの男の子が好きにしか見えないんだけど」
「はぁぁ!?」
 アルトが変な声を出した。
 さっき固まってしまったのも、こんなことを言われたからだった。
 実際、アルトがストームをどう思っているのかは分からないが、アルトはミンミンの言うことを必死に否定しているようだ。
「好きだから――好きな人が殺されたから、そこまでの怒りがあるんでしょ?」
「だから違いますよ! ただ仲間を殺されたことに怒ってるだけですー!」
「好きじゃないの?」
「…………そー言うミンミンさんこそ! キリオミくんが好きなんでしょう!?」
「ぐっ!?」
 アルトがとんでもないことを口走った。その質問に、ミンミンの顔が真っ赤になる。
「だぁーれがあんなやつ!!」
 その割には顔が赤いのだが……。
「やっぱり……」
「だから違うってぇぇ!!」
 否定するが、かなり怪しいものがある。
「あーもおっ!! いーわよっ! こーなったら戦闘再開よ! その軽口を叩けなくしてあげるわっ!!」
「いーえ、軽口を叩いているのは私じゃなくて作者……」
 ――……アルト。そういうのを軽口って言うんじゃないの……?
「とにかくっ! 行くわよっ!!」
 ミンミンが身構えた。
「すごい勢いですねー……」
 アルトがため息を吐きながら戦闘態勢に入ろうとする。
「アクア ランプ!」
 それよりも素早く、ミンミンは呪法を唱えた! 大きな水の球が宙に作られていく。人1人が入れるほどの大きさまで達すると、それをアルトに向かって投げた!
「えっ……? まさか……!!」
 アルトの脳に、幼いころの出来事がフラッシュバックをした。
 ――そう。ルクスの町に住んでいたころ、外からやって来た冒険者によって引き起こされた洪水。そして、その洪水で流されてしまった幼いころの自分。アリスが手を伸ばしてくれた。アルトも負けじとそれに向かって手を伸ばした。しかし、それはあと少しのところで届かずに、遠く離れていってしまった。水の中をもがいて苦しんで、そこから這い出そうとしいくら力を入れても、それすらいとも簡単に飲み込んでしまう。どれだけ必死に逃げ出そうとしたって、自然の力を使った魔法を前に、人間の力は敵わない。
 ――苦しい。助けて。
 どれだけ思っても言葉にはならず、彼女がとうとう死を覚悟すると、意識はゆっくり遠退いていった。――結局、彼女はペリクルムの町まで流され、親切な女性に拾われたのだが。
 しかし、それは恐怖として彼女の心に根付いていた。生活していく上で必要な分に恐怖を感じることはないが、やはり冷たい水に浸かるようなことがあればどうしても思い出してしまう。
 さらに今、その水は再び凶器となって彼女を襲おうとしているのだ。恐怖に駆られて身動きが取れない。
 パシャン!!
 アルトはそのまま水球の中に閉じ込められてしまった。
「あなたが変なことを言うからいけないのよ!」
 ミンミンが冷たい目をして言う。
 しかし、変なことを最初に言い出したのはミンミンだと思う。
「うるさい!! ……あっ! この子、ハーフだったんじゃない! 魔王に、使えるだろうから連れてこいって言われてたのに忘れてた〜……。ま、いっか」
 いいのか?
「いいの! それにしても、今回は加護が発動しなかったのね。本当、よくわからない加護だわ〜……」
 うん、自分でもよくわからな――あぁ、いや。たぶん、命に関わるほどでもないと判断されたんだろう……。
「でも、もしかしたら命が危うくなったところで呪法が切れちゃう可能性もあるし、しっかり意識集中させとかないと……。ま、あと10分もしないうちに力尽きるわよね」
 そう独り言を言って、彼女は部屋を出ようとした。道のところまで行き、1度だけ振り返ると、
「じゃあ、バイバ〜イ♪」
 水球に閉じ込められたアルトに手を振って、今度こそ部屋を出て行った。
 水に飲まれたアルトは、既に意識を手放していた。