グローリ・ワーカ   第19章:ずっと傍にいる

 重大発言。衝撃の事実。
 父だと思っていたはずの人物が告げた『本当の子ではない』。
 マニュアは石になった! 父は続けた。
「貴様は下級の魔物が拾ってきたんだ」
「……う、うそ……。マジ……?」
 マニュアの動揺など気にせず、父はなおも続ける。
「それを見つけたあいつが――おまえの義理の母が、おまえを育てようなどと言い出した。下級魔物が拾ってきたゴミなど捨てればよかったのだが、高い呪力を感じたからな。しかも、その時はまだ子供もいなかったしな……。まぁ、その2年後にシリアが生まれたわけだが……」
「え……。――……本当……に……?」
 マニュアは、それ以上の言葉をもう発することも、考えることさえできなくなっていた。
 ……だって、あんなに優しくしてくれた母がー―、自分にいろいろと話を持ちかけてきた父が――、2人が義理の両親だなんて……今まで考えもしなかった……。するわけがなかった……。
 みんなも驚いた表情でその様子を見つめている。
 マニュアは項垂れて呟いた。
「…………なんで……、私……。……だって……、2人とも……」
 渦巻く気持ちは言葉にならなかった。1つ1つの単語がバラバラになって浮かんできて、それを上手く組み合わせることができなかった。
 ――でも。
 ただ1つ、はっきりしていることも、あった。それは――、
「……そんなこと、どうだっていい。関係ない。ただ――ただ、私はおまえたちを倒す!!」
 そう、今はそんなこと、どうだってよかった。マニュアは思った。
 今この瞬間、たしかにマニュアはいろいろなことを考えた。家族と過ごしてきた過去を思い出した。
 けれど、それは今考えることじゃない。そんなこと、後からだっていくらでも考える時間はあるはず。
 だから、今はやらなきゃいけないこと。そう。目の前の敵を――父や、魔王たちを倒すことを考えなくちゃいけないんだ!
「私は、魔王と、お父さん――貴様を倒す! シリアのためにも、人間界のためにも!!」
「えーと……。で、どうやって倒そう……?」
 ティルがなんだかためらいがちにマニュアに尋ねる。
「ぐっ……。た、戦うに決まってるじゃん!!」
「そんな簡単に倒せるかなぁ……?」
「いや、倒すし! ヨユーだし!」
「ほう? 言ってくれるな……」
 魔王が威圧感を出してくる。
 ヤバそうな雰囲気ぷんぷんだ。
「あ、そうだ。さっきの杖は? あれ、なにかに使えるんじゃ?」
「杖?」
「そーだよ。杖、あったじゃん」
 スリムとヒナがふと思い出して、マニュア以外の6人の方を見た。
 ――が、誰も杖を持っていない。
「あれ?」
「そういえば、さっき杖ってあったよね」
「あぁ、あの水晶かなんかが光ってできたやつ」
「誰が持ってんだ?」
「私じゃないよー」
「おい。誰が持ってんだよ!」
「それは、これか?」
 バーン!
 トンヌラが掲げたその手には間違いなく先ほどの杖が握られていた。
「「「「「「それだ――――――――!!!!」」」」」」
「って、ああああああ!!!! 水晶が光ってできたって……それ、ゴッド・ウィッシュ!」
 そう。空水晶からできたグローリ・ワーカの武器であるはずのゴッド・ウィッシュは、今、トンヌラの手にあった!
「おいおい。それはやべーよ! どうすんのこれ!?」
「え? やっぱり、あれ、重要な武器?」
「そりゃそうでしょうよ! あれって空水晶からできたんでしょ!? っていうか、よくよく見れば窓の外明るいし! 地守月か! 私が死んでる間に!! 地守月来るわ、空水晶がゴッド・ウィッシュになってるわ、しかもそれが奪われてるわ、ついでにどうでもいいけどヤン狼とかおもしろいことになってるわ……! なにこれもうどうしろと!?」
「おい」
「ふむ……。重要な武器を取り上げたようだな。よくやった、トンヌラよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
 魔王に向かって、片膝をつき恭しく頭を下げるトンヌラ。
「くっそー……。なんだよ、トンヌラとか変な名前のくせに、そこそこ長身イケメンだし、要領いいし、しっかりしてるし……! ふざけんな!」
 涙目で訴えるマニュア。
「それ、けなしてんの!? 褒めてるの!? どっちっすか!」
 天然ボケのはずのアルトがツッコむ!
「天然でもボケでもないですよ!」
「そんな……アルトさんにツッコまれるとか……!」
「マニュちゃん、失礼!!Σ」
「って、おまえ、あいつの名前をけなすと――!」
「「え?」」
 ニールが慌てた。が、時既に遅し。
「――……き〜さ〜ま〜るぁぁ〜〜〜〜……!!!!!!!!」
「あ゛…………」
 ブチギレて般若顔のトンヌラが、そこにはいた。
「またしても、この高貴な名前を侮辱するとは……! 許せんっ……!! あの世で後悔させてくれるわ!!」
「「ギャ――――――――!!」」
 トンヌラは怒りに任せて手に持ったままのゴッド・ウィッシュを勢いよく振り下ろした!
 ドゴォン!!!!
 どういうわけか、凄まじい音がして床が円形にめり込んでいた。
「ちょ!!?? 杖でどうやってあんなこと!? 別に呪法使ってないよね!?」
「ていうか、髪が金色になって逆立ってませんか、あれ!?」
「物語違うキャラにっ!!!!」
「――みんな、逃げろ――――――――っ!!!!」
 こうして、スーパー○イヤ人となったトンヌラから逃げる鬼ごっこが始まったのだった……。
「違うッ!! 色々間違ってる!!ι」