グローリ・ワーカ   第1章:出会い

「こ、これが魔物……」
(できるなら会いたくなかった……)
 町の外れ、森の脇で、とうとう魔物と対峙することとなったマニュア。さて、どう出るか。
「…………あ」
 一言だけ声を上げ、とつぜん動かなくなってしまった。どうした、マニュア!?
「あの、気付いちゃったんだけど――」
 弱々しい声で言ったそれは――
「――私の職業ってナニ……?」
 ……………………。
 マニュアと町人、そして魔物の間に、冷たい冬の風が吹いた。

「わ、わっかんないんですかああぁぁぁぁ――――――!?」
「え、冒険者ですよね!?」
「う、あ、あの、冒険者なんだけど、実は、まだ旅立ったばっかっていうか」
 すごいな。今まで見たことないよ。いくらギャグファンタジーだからって自分の職業がわからない冒険者ってどんなだよ。
「ちょ、作者までそんなこと言うなよ。本気で落ち込むぞ」
 慌てる町人。落ち込むマニュア。魔物は置いてけぼりである。
「あぁ、もう、殴ってやる――――!!」
 マニュア 状態:混乱
 このままやられてしまうのか!?

「ピュウ――――――――――!!!!」
 そのとき、魔物に殴りかかろうとしたマニュアをピュウが止めた。
 そして、尻尾をなにやらごそごそしたかと思うと、そこからマイクを取り出した(どうやって……!?)。
「マイク……?」
 訝しげに眺めていると、町人の1人が叫んだ。
「そうだ!! その装備、吟遊詩人用の服じゃないですか!!」
「え? マジで?」
 自分で「マジで」はないだろ!?
 えー……吟遊詩人とは、その美しい歌声と美貌で敵を惑すことができる。そして、その歌声には魔力を秘めている。と言われる職業。
 美貌はどうかさておき、町人の言うとおり、マニュアは吟遊詩人が装備できる『初心者詩人の服』を着ていた。
「いや、この服、かわいかったから買ってみただけだし」
 冒険者とは思えないセリフである。
「とっ、ともかく! 吟遊詩人なんだね! じゃあ歌います!!!!」
 ピュウからマイクを受け取り、臨戦態勢に入った。
 そして、大きく息を吸い込み――



 魔物も町人も、さらにはピュウまでも瀕死状態になっていた。
 一言で言うと――音痴、だった……。
 洒落にならないほどのものすごく音痴な歌を大声で歌い、魔物も町人も耳だけでなく精神までおかしくなってしまった。破壊力抜群である……。
 マニュア以外全員、あと一息で死ぬ。