グローリ・ワーカ   第21章:思い出を胸に

 今度こそ……今度こそまともな最終決戦が始まる……!
 勇者たちと魔王の戦いが幕を開けた!!
「前回のはなかったことになってるのかしら?」
「いや、まぁ、戦いとはいえない状態だったしな」
 アリスとヤンが言う。もうこれ以上漫才はやめてくれ。
「じゃぁとにかくぅ! 早く倒そうよぉ!」
「はっ! そうだ! 空水晶がゴッド・ウィッシュに変形したのは、地守月の影響……って認識であってるよね? だったら、地守月が終わる前に倒さないと! さっさと倒すよー!」
 ティルとマニュアが言う。
 と、その言葉に、突然魔王が笑い出した。
「クックックッ……」
 さもおかしそうに笑う魔王に、ティルは顔を赤くして怒鳴った。
「なっ、なにがおかしいの!?」
 魔王はそれに笑いを止めずに答えた。
「ハッハッハッ。貴様らのようなガキ共が私を倒す? 貴様らのような弱者が? おかしいったらこの上ないな!」
 更に大きな声を出して笑う。
「あぁっ!? やっぱりこいつムカつく!」
 アリスが言う。……前回の口喧嘩をまだ根に持っているようだ……。
「いや、でもこれはムカつくぞ」
「あぁ、マジですっげームカつく」
 他のメンバーも同意する。
 と、突然、魔王が真顔になって言った。
「――わかってるのか、ガキ共。これは生きるか死ぬかの戦いなんだぞ。貴様らのようなガキが出る幕じゃぁないんだ、本当は」
「わかってるよ! でも、私たちは勇者だ! 子供とかそんなこと関係ない!」
 マニュアが力強く言う。魔王はじっとマニュアを見つめて、
「……あれだけボケ倒しておいて、わかってるのか……」
「それはゴメンナサイ」
 素直に謝ってしまうマニュアだった。
「そもそも、勇者だからといってなんだ。杖を手に入れただけだろう。加護に関してだって、こちらには賢者の石がある。貴様らに勝つ見込みなどないことに気付かないのか」
「…………ケッ。くそじじい……」
 マニュアがぼそっとつぶやいた。が、
「そこ! なにか言ったか!?」
 魔王には聞こえていたらしい。
「イーエ。べつに、な〜んにも」
 マニュアは嫌味ったらしく答えた。
「……今だったら許してやらないこともなかったんだがな」
 魔王が言う。
「えぇっ!?」
 それにヒナが反応した。
「ヒ、ヒナさん……?」
「だぁが!」
 魔王は続けた。
「今の一言で気が変わった。そこの誰かさんの一言でな」
 マニュアを指差す。マニュアは興味なさそうにそれを見て、一言、
「あっそう」
 とだけ言った。
「だから! この場にいるおまえら、全員殺ス!!!!」
 魔王が声を荒げた瞬間、突然魔王の周りの空気が激しくうねった。そしてそれは爆発したかのように、勢いよく弾け飛んだ! その勢いに、周りにいた者たちが一斉に吹き飛ばされる。
「キャアァァ!?」
「キャーッ!!」
「うわっ!! な、なんだ!?」
「す、すごい……」
 アルトがつぶやく。
「えっ!?」
「……これは、周囲の空気なんかじゃなくて、魔王から噴き出された呪力……! なんてすごい……。今までの倍以上……!!」
 どうやら、半分魔族であるアルトにはわかるようだ。
「なんだって!?」
「おい! 強くさせてどーすんだヨ!」
「こうなったら、責任者は……」
「もちろん、原因の……」
 じ――――――――……。
 みんなが1人の人物を見つめた。その人物とは、もちろん――、
「わ、私ぃ?」
 マニュアだった。
「そーだ。おまえがあんなこと言ったから魔王が怒ったんだろ」
「で、でも……。ホラ! ゴッド・ウィッシュでさっさと倒しちゃえば!! そ、それに、今ここで許してもらって殺されなかったとしても、人間界を破壊しようとしてんだから、結局意味ないし。それにさっ! そもそも私たちはあいつを倒しに来たんでしょ!!」
 必死に言い訳をするマニュア。
「まぁ……。たしかにそのとおりだけどな」
 その言葉に、ニールは頷いた。
「でっしょー。さすがニール! 話わかるぅ。ねっ!?」
 なんて言いながら、ちゃっかり腕を回そうとするマニュア。
「でも、怒らせて強くさせる必要はなかったんじゃないのか」
 と、そこへヤンが話に割って入る。
「う゛……」
 反論され、腕を回すタイミングを逃したマニュアでした。
「うぐぐ……。でもさ! 別に怒らせなくたって最終的には向こうだって本気出してきたと思うんだけど! 大体RPGだってラスボスなんて何回か形態変えてどんどん強くなってくことが多いじゃない!? ニールもそう思うよね!?」
「え。そ、そうだな……」
 マニュアの勢いに押されるニール。
 と、そこへ!
「ブロウ ダメージ!」
 魔王が呪法を放つ!
「ん? ふぇっ!?」
「うわっ!! 危ねぇっ!!」
 危機一発! ニールはマニュアもろとも横へ倒れ込み、それを逃れた。
 驚いて目を丸くしているマニュア。それをニールは怒鳴りつけた。
「あのなー! バカか、おまえは!! そんな話して隙見せてる場合じゃ……!」
「あ、ご、ごめん。ニール……」
 少しぼーっとしながらも、マニュアは謝った。体勢を立て直してから、申し訳ないのと恥ずかしいので頭を下げた。そして、ゆっくりと上げた顔を真っ赤にしながら、
「……あ、あと、その……ありがとう……」
 ニールは背中を向けて、なにも言わずに片手を挙げただけだった。
「大丈夫。怒ってないと思いますよ……」
 アルトがいつの間にかマニュアの後ろに来て言った。
「うひゃぁ!? ア、アルトさん! こ、怖ひ……」
「フフフ……」
 アルトは、ニヤニヤしながら静かにマニュアを見つめてくるだけだった。
 ――と、そんなことをやっている間に、魔王が再び呪法を放ってきた!
「えぇっ!?」
「うわっ!? アリス危ねぇ!!」
「ス、ストーム! キャアァッ!!」
 周囲のことなどお構いなしに、無差別に呪法を撃ちまくる魔王。
 別の方でも。
「キャ――――ッ!!」
「ヒー! 伏せて!!」
「ス、スーちゃんっ! キャッ!!」
 そっちの方でも。
「うわぁっ! 危ねぇ!! オレンジ、伏せた方がいいぞ!」
「サ、サンド……。うぇーん! 魔王って危険人物!!」
「そりゃそーだ。なんてったって魔王だからな」
 しばらくの間、そんなことが続くのだった。