グローリ・ワーカ   第22章:偶然じゃなくて必然

「ピュウ……ピュ……」
 ピュウは小さく呟いた。
 ――僕も、変身でもして、役に立ちたい……。けど――。
「エイク アビリティ アゴニー フィア デス!」
「滅失拳!」
「魅惑の舞い!」
「イポス!」
「アロー・スプリット・フラッシュ!」
「ストーム・コーズ!」
「呼ばれたか? あ、違う? 剣5本一気投げ!」
 ――入りたくても、みんな凄過ぎてこの戦いの中に入れない……!
 本当に、すごかった。数の暴力というのもあって、これではまるで集団リンチだ。こうなってくると、逆に魔父に対して同情を禁じえない。
 と、その時。
 今までやられっ放しだった魔父がなにか小さく呪法を唱え出した。
「呪法唱えたって今は無駄だよ! 跳ね返す魔法がかかってるって――」
 マニュアが魔父に向かって声を上げる。
 と、そこへ悲鳴に近い、更に大きな声が上がった。
「ホワイト! ニー!」
「ティー!」
 それはなにかに気付いたスリムとヒナの声だった。
 近くにいたマニュア、ニール、ティルの足元に突如として暗闇が現れたのだ。
 スリムとヒナが思い切り手を伸ばした。暗闇に飲み込まれそうになった3人の首根っこを急いで掴む。そして、それを力いっぱい引っ張った。
 間一髪、3人は闇に飲み込まれずに済んだ。――が、3人を引っ張り上げた反動で、今度はスリムとヒナの2人が闇に飲まれる形となってしまった。
「スーちゃん!」
「ヒーちゃん!!」
 マニュアたちの叫び声も空しく。
 闇は消えた。2人の姿と共に――。
『ちっ!』
「2人は……どうなったの!?」
 マニュアが魔父を睨み付けて尋ねた。
 魔父は冷ややかな視線で見下して、言う。
『たいしたことじゃない。ただ、呪法が跳ね返されるという話だっただろう。だから、直接攻撃を止めたまでのこと。そして、勇者が7人揃っていることも都合が悪かったのでな。何人かを人間界に帰してやろうと扉を開いただけだ。結局無駄撃ちに終わってしまったが……。しかし、これで邪魔者がいなくなったとも言える。さぁ、勇者たちよ。戦おうじゃないか』
 魔父が笑った。
(あぁ。さっきあれだけあの2人にやられたもんねぇ。あの2人がいなくなって、ちょっと嬉しそうだわ)
 そんなことを思うアリスだった。

 スリムとヒナは、見たこともない場所にいた。
 開けた草原。月は明るく、辺りを照らしている。
「ここまで来て、1番大事なところで力になれないの……!」
 状況を理解したスリムが、瞼を閉じて深く溜め息をついた。
 そのスリムの肩に、ポンと優しく手を置いたヒナ。
 目を再び開いて、ヒナを見上げる。ヒナはそっと微笑んだ。
「それでも、ティーたちを助けられたよ。ティーたちに託して、後は祈ろう」
「うん……」
 そう。少しでも力になれた。彼女たちを助けることができたと信じたい。あとはきっと、彼女たちだけでなんとかしてくれると。
 2人は地守月を見つめながら、勇者たちの無事と、世界の平和を祈った。
「さて、ここどこだろう」
 スリムが呟く。
 もう1度辺りを見渡す。
 広い草原で、少し先に鬱蒼とした森が生い茂っているのだけが見える。
「……近くに町がないか、探してみようか……」
「うん……」