グローリ・ワーカ   第23章:全ての祈り

 そして、アストルムの国にあるシドゥスの町。
「ごめんねー、マリーナちゃん。こんな遅くまで館のお掃除手伝ってもらっちゃって」
 マリアが占い館を掃除する手を動かしながら、マリーナに言った。
 マリーナは微笑んで、
「いいよ、気にしないで。アルバイトだし、親も了承してるし。それに、今日は地守月で眠れそうにないしね」
「そうね。だからこそ、月の魔力が高い今夜のうちに、いろいろ道具の準備とかしておきたいんだけど。……でも、ありがとう、マリーナちゃん」
 マリアも微笑んで言った。
 2人でそんなことをしていると――
 パアアァァァァ……。
「な、なに!? 急に外が明るく……!? さっきから明るかったけど、一段と明るくなったよ!?」
 マリーナが驚いて目を細めた。
「マリーナちゃん! 外に出てみよう!」
「うん!」
 2人が外に飛び出ると、そこは光の世界だった。
 空から地守月のものとは別の光が降り注いでいる。
「……なにこれ……? 夢か幻……? すごく、キレイ……あったかい……」
 マリーナが呆然としながら呟いた。
「この光は……」
 マリアが空を見上げた。
「――マー、今度こそ負けないで……」
 マリアは精一杯の祈りを、その光に向かって捧げた。

 マリーナの友人のユナも、同じ町の別の場所で、みんなの無事を祈っていた。
「少ししか会ってないけど、でも……頑張って。また元気で、会いに来てよ」

 戻って、エレクトロニカのティロの町では、ストームの祖父が、
「孫は元気かね? まぁあまり心配はしてないがね。あいつなら、きっと元気にやっていることだろう。なんせ、わしの孫だからな」
 そう言って、「ふぁっふぁっふぁっ」と笑った。

 まだ草原を彷徨っていたスリムとヒナも、当然その光を目撃していた。
「え? なに!?」
「さっきよりもすごい光だよ……!」
 そして、その光を見てやはり彼女たちも、先ほどまで共に戦っていた勇者たちのことを思い出した。
「ティー……。大丈夫かな?」
 少しだけ心配そうに、ヒナが言う。
 スリムは祈った。
「ホワイト……みんな……。どうか、無事で。そして、僕たちの分も、頑張って……!」
 ヒナも祈った。
「彼女たちに神のご加護がありますように」

 そんなヒナや、ティルが生まれ育った町――モンストルムでも、祈っている人たちがいた。
 ティルの家族はもちろん、普通の人間であれば思いもかけない者――
「ティルは、元気にやっているだろうか」
 ――それは、人間ではない。魔物だった。ティルがまだ幼い頃、「気持ち悪い」と言われて泣く彼女の涙を拭った魔物。
 彼女はもう泣いていないだろうか。楽しくやっているだろうか。――彼女の夢は、叶えられそうだろうか?
「彼女の夢、そして、わしの夢が叶いますように。彼女が、笑顔でまた明日を生きていけますように」
 魔物は、願った。
 そして、ティルと仲の良い魔物たちも、彼女の無事を祈っていた。

 勇者たち、みんなの家族が、友達が、知人が、そして、すれ違っただけの人も、会ったことすらない人も――みんなが、噂で聞いただけだったり、実際に会って共に笑った勇者の無事、そして世界の平和を祈っていた。