グローリ・ワーカ   第23章:全ての祈り

「ん……?」
 7人はゆっくりと目を開けた。
 そこは、光に包まれる前となにも変わっていない魔王城……。
 ただ1つ変化があるとすれば、それは、魔父がそこにいないこと。
「――もしかして、勝った……?」
 アリスが恐る恐る、誰に問うでもなく呟いた。
 その言葉に、まずアルトが反応した。
「そう……ですよ……。私たち、勝ったんですよね……!」
 そして、その喜びは少しずつみんなに広がっていった。
「よっしゃあぁ――――!!」
「勝った……!? 私たち、勝ったんだよー!!」
「とうとう倒したんだな!?」
「おうっ! 間違いねーぜっ!!」
 みんな、嬉しそうにはしゃぐ。ジャンプなんかして喜んでいる人、頭を振ったり、ほっぺたをつねったり、中には泣いている人もいる。
「――マニュア?」
 ピュウがぼーっとしているマニュアに声をかけた。
 マニュアは、ゴッド・ウィッシュから元に戻った空水晶を拾い上げながら、言った。
「――大丈夫。なんでもない。……ただ、よ、よくわかんないよ。嬉しい、嬉しいはずなのに……いろんな気持ちが、ぐるぐるって、頭の中で混ざって……。ほ、本当は、こんな泣き虫じゃないはずなんだよ? 涙なんか……」
 全身はガクガク震え、涙が溢れていた。
 どんな気持ちからこんな風になっているのか、それは本人にもよくわからなかった。
 義父のこと、シリアのこと、ミンミンのこと、人間のこと、魔族のこと、魔界のこと、人間界のこと――本当にたくさんの気持ちが心を乱して、処理なんてしきれなかった。
 マニュアは全ての空水晶を腕に抱え立ち上がろうとしたが、力が抜けてバランスを崩してしまった。
「危ない……っ!」
 慌ててピュウが支える。
 おかげで、マニュアこそ倒れはしなかったものの、空水晶を取り落としてしまった。
「あっ……空水晶が……!」
 再び空水晶を拾おうと、ピュウの元を離れるマニュア。途端、その場に崩れ落ちた。
「マニュア!」
 マニュアはそのまま泣いていた。
 その様子になにか声をかけることもできず、ピュウが困った顔をしていると、
「どうした?」
 と、ニールが声をかけてくれた。
 これ幸いと、ピュウはニールに言った。
「僕は一足先に人間界に帰っている。まだ、仕事が残っているからな。だから後は、この場は頼んだぞ。王子様」
「は? 王子??」
 ピュウは状況を飲み込めていないニールをマニュアの前にやり、自分はそのまま消えてしまった。
「って、ピュウ!? おい!?」
 ピュウがどこへ消えてしまったのか。一体なにをするというのか。わからない。
 とりあえず、マニュアが倒れていることだけはわかる。
「…………おい、ホワイト」
「どわっ!? ニッ……ニール!!??」
 ニールの声に、慌てて飛び起きるマニュア。
「なんだ。どうした? 大丈夫か?」
(あぁっ! ニールが心配してくれてるっ! 喜、嬉、喜〜っ!!)
 いっぱいいっぱいなせいか、壊れ気味のマニュアだった。
「ん? なになにぃー? マー、どうしたの〜?」
 気付いたみんなが心配して寄ってくる。
「あっ、ティルちゃん……なんでもないよっ、大丈夫!」
「無理しないでよー?」
「アリちゃんも……。ごめんごめん、無理しないよ。それに、もう魔王ってか、魔父は倒したんだし。大丈夫だよ」
「そうだぜ! 人間界に帰って祝賀パーティーでもしようぜ!」
 ストームの提案に、俄然やる気になるみんな。
「いーね、それいーねぇ!」
「おぉ、それは楽しみ! やろーやろー!」
「肉やケーキとかいっぱい用意するぞ!」
「あと、久しぶりにめいっぱい遊びたいですね!」
 今度は、楽しそうにはしゃいでいる。
 ――と、その時だった。
 部屋の片隅で、もぞもぞと、なにか影が動いた。
「な、なんだ!? まさか、まだ……っ!?」
 それに気付いたニールが声を上げて構える。
 しかし、それとは対象的に。マニュアはそれがなにか気付いて、顔を輝かせた。
「いや、違うよ……あれは……!!」

「たとえ、今日が雨だとしても、いつかは晴れる日が来るだろう。彼女の心にも」
 ピュウは人間界に向かいながら、マニュアを思い、呟いた。
 ――諦めず希望を持つ者には、きっと素晴らしい未来がやって来るはずだから。