グローリ・ワーカ   第24章:そしてこれから

 店を出て通りを歩きながら話をする。
「なんか……すごいね……」
「ねー! スゴイよぉー!」
「なんか運命の出会いって感じー」
「あ、懐かしいセリフだねぇ、それ」
「でもよー、本当にすごい偶然だな……」
「まったくな」
「イヤ、本当にすごいっすよ」
 みんな顔を見合わせて笑った。偶然とは恐ろしい。
「――いや、偶然じゃないかもよ?」
 マニュアが、顔を上げて言った。
「え?」
「偶然じゃなくて、必然ってことかー?」
 ストームが笑いながらそれに答える。
 マニュアは続けた。
「うん。必然ってか――これが、私たち、グローリ・ワーカの運命なんじゃない?」
「どういうこと?」
 そう尋ねるアリスに、マニュアはにっこり笑って答えた。
「みんなでもっと旅を続けろってことじゃない?」
「――そうだね! 仕方ないなー。マーに付き合ってあげるよ! 本当は、この平和になった世界をみんなで一緒に旅したいんでしょ? ね」
 ティルはいたずらっこのように笑いながら、
「そう言ってたもんね?」
 とマニュアにウィンクした。
 マニュアは顔を真っ赤にして、
「! お、覚えて……!?」
(第21章で)魔王にかけられた幻覚の中、たしかにマニュアは泣きながらそんなことを言っていた。
 しかし、我に帰って思い返すと、なんだか恥ずかしい。
「う゛ー……」
「というわけで! みんなで旅しよっか!」
 ティルが元気よく振り返る。
「え゛。またこいつらと一緒かよー。まぁ……別にいいんだけどな!」
 ストームが親指を立てて、にぃっと笑った。
(考えてみれば、みんなこの町を通るのもあたり前な気がするが――)
 町の位置を考えると、みんな大体向かう方角は一緒であった。
「――ま、別にいいぞ」
 ヤンも笑ってそう答えた。他のメンツも頷く。
「俺も別に構わねー」
「私ももちろんですとも! ていうか、わーい!」
「もう、アルト! とりあえず、私も一緒に旅するけども! 一緒でいいから、みんな1度それぞれの家回ろう! ね!」
 アリスの提案に、みんな頷く。
 みんなで一緒にそれぞれの家に顔を出して、それからまた各地を回る。それで決定となった。
 わいわいがやがや。
 グローリ・ワーカの旅はまだまだ終わりそうにない。
 それぞれが好き勝手に話ながら町を適当に歩いている途中、ニールがふとマニュアの方を振り返って言った。
「それにしても……随分明るくなったな」
「へ?」
 突然の言葉に、マニュアはなんとも間抜けな声で返事をした。
「……昔、俺がまだドラコに――おまえと同じ町に住んでた時の、おまえのあだ名って『おばけ』とか『幽霊』だっただろうが」
「って、わ――――! その話すんな!」
 慌てて両手をバタバタさせ、ニールの口を塞ごうとする。
 それを避けて、ニールは続けた。
「みんな別の話に夢中で聞こえちゃいねーよ。……おまえ、あの頃は結構暗かったよな。もしかしたら、それはそんだけのもん背負ってたからかもしれねーけど」
「…………」
 マニュアはこれまで大きなものを背負っていた。はっきり言ってしまえば、人間界に来た頃には、母から託された未来のことなど忘れかけていた。それでも、魔界から逃げ出したこと、それに人間界を救わなきゃいけないことも漠然と覚えていて、胸にもやもやとしたものを抱え込んでいた。
 子供というのは残酷なもので、そんな影を背負ったマニュアを『おばけ』や『幽霊』などと呼んでからかっていた。
 けれど――
「……今は、もう大丈夫だな」
「――うんっ!」
 その言葉に、マニュアは満面の笑みで頷いた。
「さーて! ピュウに乗ってばーっとひとっ飛びして、ばばっと家に顔出して、さーっと新しい旅に出るよ!」
 マニュアがみんなの話に割って入って言う。
「え? もう!?」
「善は急げ! ってね」
 驚くティルに、マニュアはそう言った。
「いや、待て。俺、宿とったんだけども」
 ニールの言葉に、ストームは、
「んなの気にすんなってー!」
「いや、さすがにそれはいいのか!?」
 ヤンも戸惑っている。
「じゃあ、さっさとキャンセルしてこいよー。待ってるからさー」
 マニュアがそう言うと、ニールは慌てて、
「なんでだよ!」
 と文句を言いながらも、キャンセルをしに宿へと向かったのだった。
「あー。そういえば、マニュちゃん。私、ふと気になってたことがあるのですけども」
 ニールを待っている間、アルトがマニュアに質問をする。
「ん? なに?」
「――ニールくんとは、どうなんスか?」
「ふぁっ!?」
 予想外の質問に、おもわず真っ赤になって後ずさるマニュア。
「いえ、先ほど仲良さそうに話していたなぁ、なんて」
「そ、そ、そ、そういうアルトさんこそー! ストームとどうなのー!? ていうか、ティルちゃんもいるし、どっち応援すればいいの、私は!」
 慌ててそう返す。
 アルトも真っ赤になり、
「いえいえいえいえっ! そ、それは、ティーちゃんを応援してくださいっ! 私のことはどうかお気になさらずっ!」
「いや、気になるよっ! 割とアルトさんも応援したいよ!」
「関係ない関係ないですっ!」
 わーわーぎゃーぎゃー。
 まったくなにをやっているのか。
(――というか、本当は別のことを訊きたかったんですけど……。なんとなく、今は置いておきましょう)
 そんなやり取りをしているうちに、ニールが戻ってきた。
「待たせたな! ……って、なにやってんだ?」
「うわっ!? ニ、ニー……別になんでもないよっ!」
「えぇ、なんでもございませんくてよ! きっと」
「きっと?」
「それよりもー! 旅を再開するよー!」
 マニュアが拳を突き上げる。みんなもつられて、
「「「「「「オー!」」」」」」
 と空に向かって拳を突き上げた。

 町から少し離れた場所で、ピュウは昔1度変身したことのある黒竜へと化けてみせた。
「おぉ。ドラゴン! なんだかんだでドラゴンに変身したとこ、乗ってなかったな」
「楽しそうですね! まさしくファンタジー!」
「んじゃ、乗るか」
「そうだね。そして、1度帰ったら、また新しい旅に」
「また楽しい旅の始まりだっつーこんで! よし、行こーゼ!」
「もうなにも責任はないし、目的もない。あ、私にはあるけどー、でも――自由に好きな旅をしていいわけだもんね!」
「うん! それじゃあ、レッツゴー!!!!」
「ピュウー!!」
 元気な声が大空へと響き渡り、その青い空を、黒い翼が風を切って羽ばたいていった。
 果てしなく広がる空を飛ぶ影。果てしなく広がる世界を、若者たちは、未来に希望を持って旅を続けていく。
 今日も、明日も――いつまでも――。