グローリ・ワーカ   第9章:彼女の思惑

「そうだそうだ。本題から逸れすぎ。忘れてたよ」
 マニュアはみんなに向かって言った。
「どこに向かうか、だけど――」
 全員の顔を見回す。
 みんな、マニュアの次の言葉を待っているようだ。ここでボケるなよ、マニュア。
「ボケないよ! ――えっと、アルトちゃんは、やっぱり、魔界――しかも、魔王城に連れていかれたと思う」
「魔王城――……!」
 マニュアの言葉に、青くなるアリス。
 マニュアは慎重に頷き、
「そう……。なんだか早いけど、もう魔王城に乗り込むことになりそうだ」
「で、どーやって行くの……?」
 ティルが不安そうに尋ねる。
「大丈夫。私は、魔族だから」
 そう言って、マニュアは背中を向けた。
 そのまま、みんなに声をかける。
「みんな――心の準備は、いい?」
「……うん!」
「おう!」
 心強く頷く仲間たち。マニュアは安心して、呪法を唱え始めた。
 マニュアの体の前に、大きく黒い闇が出来上がっていく。
「これは――」
 マニュアが唱え終わると、空中には穴が開いていた。
「これは、何……!?」
 驚いたティルが尋ねる。
 マニュアは、穴の中に掻き消されてしまわないよう、大きな声で答える。
「魔界へと続く道だよ。アルトはきっとこの向こうだ。さぁ、行くよ!」
 そして、次の瞬間、マニュアは穴の中に身を投げた。
「マニュア!」
「ホワさん!」
「ホワイト!」
 みんな次々とマニュアの後を追いかけて、穴に入っていく。
 最後になり、ティルも追いかけようと穴を通ろうとしたとき、
「ティルさん」
 ティルの後ろにたった1人残っていたシリアが声をかけた。
「シリアちゃん、行くよ」
 ティルが手を伸ばす。
 シリアはティルの手を取ると、言った。
「『シリア』でいいですよ。――ねぇ、ティルさん」
「『ティル』でいいよ。なに?」
「――姉さんを、殺して」
「え?」
 穴に入ろうとして、おもわず立ち止まるティル。
「な……どうして……っ!?」
 シリアは視線を落とした。
「……姉さんは――ミリアは、魔族です」
「『ミリア』って……昔のマニュアちゃんの名前だよね?」
 シリアは力なく首を振って、
「そうですけど、それだけじゃありません。……ミリアは世界を――」
 そこまで言ったとき、穴の奥からかすかにマニュアの声が聴こえた。
「ティルちゃ〜ん! シリア〜! 早くしないと穴が閉じちゃうよー!」
 シリアはティルの手をぐいとおもいきり引くと、一緒に闇の中へと消えていった。
(なんで、マニュアちゃんを殺さなきゃいけないの……!? いったい、どういうこと――)
 1人考え込むティルだが、意識はだんだんと闇に委ねられ、溶けるように遠のいていった。