僕の生存日記   第9話:偽装ラバーズ

『川野辺 葉乃』と『千羽 緋路』は『今池 輝也』君を尾行していたんだけど、思いもよらずシリアス通り越してサスペンスなシーンに出くわしてしまった。
 助けを求めに出たその時、丁度『神成 躍人』先輩に遭遇。簡単に経緯を説明し、ついてきらもらうことに。
 今回は『黒井 姫』さんがいなくて良かった。危ない目に遭わさずに済んだから。
 それにしても――果たして彼は無事でいるだろうか。今、強力な助っ人連れてくから、待っててね!

「今池君! 大丈夫――!?」
 神成先輩を連れて、僕達は今池君のいる体育館裏へと飛び出した。
 と、そんな僕達が目にした光景は――
「あれ? 葉乃ちゃん? あとついでに他2人も、どうしたんだ?」
 今池君が驚いた様子で僕を見て言った。
「あれ? あのヤバイ男……は?」
「え? あぁ、なんだ。見てたのか?」
 そう言って、今池君が足元に視線を落とす。
 男は――今池君の足元で伸びていた。動けないよう、ご丁寧に手足を縛られている。
「え? 大丈夫だったの? よ、よかった……」
 思わず腰が抜けて、へにょりとその場に座り込んでしまった。
「なんだー。葉乃ちゃん、心配してくれたのかー♪」
 今度は嬉しそうに僕のところへ近付くと、手を差し出してきた。
「あぁ、ありがと……」
「こら――! 手を出すな! 葉乃は俺が抱え起こすから、おまえは、不・要!! さっさと離れろ!」
 千羽が僕に抱き付きながら抗議する。
 さっきまでなんだかんだでおまえも心配してたくせに。
「それに、おまえの恋人はその娘なんだろ!?」
 あぁ、そうだ。千羽の言葉で思い出した。というか、そんなこと、さっきの出来事ですっかり頭から抜けていた。
「えぇっと、違うんです!/// 違うんです。すみません!」
 琴音さんがまた顔を赤くして、必死に否定を始めた。
「いや、別に? 違わないけどね」
 と、そんな琴音さんを後ろから抱き寄せる今池君。
「そそそそそんな!/// 今日だけですし! というか、そんなの、私には勿体無いです! 悪いです!」
 琴音さんは爆発しそうなくらい真っ赤になりながら今池君を振り返った。
 そして、今池君の顔を見て、琴音さんは悲鳴に近い声を上げた。
「――って、血ぃ――!!!!」
 よく見ると、今池君の頬には切り傷が出来ていて、そこから血が流れていた。
 男をやっつけることはできたものの、今池君もさすがに無傷というわけにはいかなかったようだ。
「だ、大丈夫ですか!? ごめんなさい! 本当にごめんなさい……!」
 今度は真っ青になって、慌ててポケットからハンカチを取り出すと、涙目でその血を拭った。
 ころころと表情の変わる人だ。
 まぁ、どうやら彼女が原因(?)での出来事だし、泣きそうになる気持ちは分かるけどね。
 しかし、ナルシストな今池君の顔に傷、か――……。激しくショックを受けるか、ぶちキレそうだよなぁ……。
 そう思ったのだが、意外にも、彼は涼しい顔をして、
「大丈夫だよ、これくらい。男の勲章だろう?」
 ――正直、初めて、今池君のことをカッコイイと思った。なんとなく、モテるのも分かる気がした。
 そして、今池君のその言葉に、琴音さんはとうとう泣き出してしまったのだった。

「で、結局なんだったんだ?」
 イマイチ状況が掴めていない神成先輩が首を捻った。
「あ、あのですね……」
 グスグスと涙を拭いながら、琴音さんは話し始めた。

 彼女の名は『音無 琴音(おとなし ことね)』。1年9組に在籍中のごく普通の女の子だった。
 数週間前から、そんな彼女に付きまとう男が現れた。
 常に感じる視線、鳴り止まない着信音……そして、とうとう直接彼女の前に現れ、彼氏を気取る男。
 身の危険を感じた彼女は、隙を見て今池君に頼み込んだ。「恋人のフリをしてください」と。
 なんで今池君に頼んだかは――それは教えてくれなかったけど、見てれば分かるよね。本当は、フリじゃなくて、本当に付き合いたかったんだろうな。
 今池君、どうやら最初は断ったらしい。今池君が言うには、(フリだとしても)誰か1人と付き合うと周りの嫉妬が怖いからってさ。
 でも、男がヤバイことに気付いて、協力することにした。一か八か、今日ここに呼び出して、恋人ができたからもうやめてくれと伝えることにした。最初から、無事に済むとは思ってなかったけれど。

「――というわけなんです……」
 やっと泣き止み、しかし、目を真っ赤に腫らした琴音さん――音無さんが一通り説明を終えた。
 それにしても、今池君のこと、単なるナルシストなナンパ野郎(ごめん)だと思ってたけど――意外といいとこもあったんだね。
 というか、(最近影が薄かったけど)今回は本当にかっこよかったよ。感心した。
 思わず今池君を見つめる。
 その視線に気付いた今池君が、にっこりと笑った。
「葉乃ちゃん、俺に惚れちゃった?」
「それはない」
 きっぱりと。
「まぁ、でも……そうだね。今日は彼女の恋人だから。ありがたいけど、葉乃ちゃんの気持ちには応えられないね。ごめん」
「だから、ないって」
 それにしても、珍しく、一途な感じの今池君である。
「あ、あの! もう大丈夫ですから……! 無理して恋人のフリして頂かなくても……///」
 音無さんが慌てたように言った。
 そうか、これで無事解決した――のかどうかまだよく分からないけど、一応、もう役目は終わったのか。
 しかし、今池君は言った。
「無理なわけないだろ、こんなかわいいコ。それに、今日は琴音の恋人だって言っただろ? 今日はまだ終わってないぞ」
 また顔を真っ赤に染める音無さん。
「え、え? そ、それって――! でも、そのっ……! い、今池先輩……っ!!///」
「そんな他人行儀な呼び方しないでさ、恋人なんだから、輝也でいいよ」
「ふあっ……! あ、あの……! えっと…………!!///」
 そして――
 バターン!!!!
「音無さん!!??」
 キャパシティをオーバーしたのか、音無さんはその場に倒れてしまったのだった。