僕の生存日記   番外編4:高菜チャーハンの休日

 よぉ。俺は『神成 躍人』。
 小竜高校のとある部活で、『川野辺 葉乃』、『千羽 緋路』、『黒井 姫』、『今池 輝也』といった個性的なメンバーを束ねる部長をやっている。
 今日は、そんな俺のある休日の話をしよう。

「久しぶりだな」
 待ち合わせの時間、駅近くの公園の時計台の下で、俺はそいつに声をかけた。
「そう? しょっちゅう会ってる気もするけど。この間もきぐるみ貸したじゃない。だから今日も会う約束したんでしょ」
 そいつは俺の姿を確認すると、楽しそうに言った。
 ――昔からの知り合いで、なぜかいつもきぐるみを着ている不思議な人物……。
 こいつを見ると、普段会っているあの部活メンバーでさえ個性的とは思えなくなってしまうかもしれないな。
「昼ご飯おごってくれるんだよね? この間、きぐるみ貸したお礼に♪」
「あぁ。そこの飯屋が旨くてな。中華なんだが、チャーハンがオススメだ。とりあえず向かうぞ」
 その言葉に嬉しそうにしているそいつを連れて、俺は足早に飯屋へ向かう。
「――やっぱり、久しぶりかも?」
「は? なにがだ?」
 そいつはいきなり妙なことを言い出したが、特にそれ以上は何も言わず、そのまますぐに着いた飯屋へと入った。

 小さな飯屋の中には、数人のお客がおしゃべりしながら昼食を取っていた。
 俺たちが1番奥のテーブルへと腰をかけると、飯屋のおばちゃんがすぐにやって来た。
「あらやだ躍人ちゃん。久しぶり。なぁに、きぐるみなんて着たお嬢さんとデート? お嬢さん、おもしろいカッコしてるわねぇ」
 おばちゃんが気さくに話しかけてくる。
 最近はなんだかんだ忙しくてずっと来れていなかったが、少し前まで俺はここの常連だったのだ。
「久しぶり。おばちゃん、高菜チャーハン2つ」
「はーい。それじゃあごゆっくり楽しんでいってね♪ とーちゃん、高菜2つー!」
「はいよー! 高菜2つ!」
 おばちゃんの注文に、おじさんの声が響く。
「いやぁー元気なおばさんだね。ちょっとびっくりしちゃったよ」
 きぐるみのそいつが言う。だが、おまえのほうがいつももっと元気だと思うぞ。
「とりあえず、この間借りたきぐるみだ。ありがとうな」
 しっかりとクリーニングを済ませたきぐるみをそいつに渡す。
 そいつは「そのまま返してくれてもよかったのに」とまた笑った。

「楽しそうだね」
 やってきた高菜チャーハンを食べながら、そいつが静かに言った。
「ん? 何の話だ? チャーハンはうまいだろ?」
「違うよ。学校のこと」
 そう言うと、そいつはスプーンを休めて、俺を見た。
「正直、心配してたんだよねー。君ってば誤解されやすいし」
「あぁ……」
 誤解されやすい……か。
 まぁ、そうだな。俺は昔からなぜかよくわからないが、人に怯えられたり、ヤクザとか言われたりしてきた。
 それで、人に避けられることも多かった。
 ――たまに、こいつのような例外もいるが。
「それでさ、また1人でいるんじゃないかって思っちゃったりしたんだけど。ほら、ある日いきなり『けんだまのきぐるみ貸してくれ!』ってやって来てさ。何事かと思ったら、部活で使うって言うじゃない」
 そういえば、そんなこともあったな。
 けんだま部を作ろうとして、勧誘のために川野辺君に着せるけんだまのきぐるみを、こいつに貸してもらったのだ。
「それからこの間まで会ってなくて、いきなり会いに来たと思ったら今度は猫のきぐるみ借りに来るし。しかもまた部活のことで」
「あぁ……すまんな。いつも貸してもらって」
「いやいや、いいんよ」
 そいつはヒラヒラと手を振って笑った。
「ただ、学校っていうか、部活楽しそうだなーってね。安心したのよ」
「いや、なんというか、たしかに楽しいが、きぐるみを借りられる相手がおまえくらいしか思い浮かばなくてだな」
 おもわず言い訳(?)をする。
 そいつはそれを止めて、言った。
「そうじゃなくて。君、随分と表情柔らかくなったと思うよ? まぁ怖い顔ではあるけどさー」
 ――表情が柔らかくなった……?
 なんだそれは。そんなこと、初めて言われた。
「それは、きっと部活のみんなのおかげなんだね」
 そう言われて、俺は部活のメンバーを思い出す。そして、そいつらと過ごしてきた日々を――。
 ……まだ出会って1ヶ月ちょっとか。濃いメンバーなせいか、既に出会って(現実の時間的に)3年半は経っている気がしていた。
 妙なヤツばかりだけど、なんだかんだ、充実した楽しい毎日だ。
「そうだな……。楽しいヤツらばかりだ」
 俺は瞼を閉じて、その裏側にあいつらの姿を思い浮かべて、微笑んだ。
「……そっか。じゃあ、またきぐるみ必要になったら言ってね! なんでも貸すよ!」
 きぐるみのそいつが、楽しそうに笑って言ってくれる。
 俺の周りには――たとえ少なかったとしても――俺と一緒に笑ってくれるヤツがいる。
「おぉ。さんきゅぅだ」
「あらあら、いい話じゃないの! これはおまけの餃子ね!」
「おばちゃん、聞いていたのか!?」
「あらやだ、ほほほ」
「よっしゃぁ! んじゃ私もあれだな。いつかそのうちおもしろメンバー見つけて部活作ろう!」
「おぉ! 作るといいぞ!」
 そう。それだけで、幸せな毎日だ。