グローリ・ワーカ   第11章:自分VS自分

 マニュアはラウムを指示し、魔王の広間である部屋の前へと辿り着いた。
 仲間たちも意識を取り戻し、ラウムの背から降りると、大きな扉の前に立ってそれを見上げた。
 この先に、魔王がいる――。
 5人は高鳴る鼓動を抑えるようと、深呼吸をする。
「……いよいよ……だね」
 ごくっ……。
 マニュアが喉を湿らせて言う。
 ティルが頷いた。
「長かった……ような、短かったような」
 アリスが強張った表情のまま言った。
「そうだね……」
 アルトも同意するが、緊張からか、やはり表情は硬かった。
「さっさと入るゾ。ここにいるんだろ? 2人とも」
 ニールがマニュアに言う。
 マニュアは、頷き、
「た、多分ね。まぁ、こんなことしてても始まらないし。行くよ!」
 気合を入れてそう言った。
 そして、扉を開こうと、取っ手に手を掛け――、

「おい。おまえたち」

 突然背後から声をかけられ、5人の心臓は天井に着くほど飛び上がった。
「なっ、なななな……な、何っ!?」
「何をしている?」
 慌てて後ろを振り返ると、そこには1人の魔族の男が――、
「ぎゃー!!!!」
「て、敵ッ、敵――――!」
「わー! えっと、えと、スライムぅ!」
「スライム呼び出してどーする!? ほとんど役立たねーよ!」
「えーい! 弓矢で攻撃ー!!」
 みんな、混乱している。
 ティルの呼び出したスライムが、足元を通りすぎて逃げていった。
「ちょっと、ちょっと待ったι」
 男が慌てて言う。
「やっぱり分かんないみたいだね」
 シュウウゥゥ……。
 男の体が突然光り出し、それは、よく見覚えのある姿へと形を変えた――。
「え……。ピ、ピュウ!?」
 そう、それは紛れも無いピュウの姿だった。
「ピュウ、ピュウピピ、ピュ。ピュ、ピピピュ、ピュウ」
「えーっと、何々……。『僕、月水晶持ったままだったから。1度逃げ出したけど、魔族に姿変えて、また戻って来たの』だそうな」
 マニュアが通訳する。
「そっか。マニュちゃん、ピュウもいなくなったって言ってたもんね。無事だったんだねー。それに、戻ってきてくれたんだ。ピュウ、偉い」
 アルトがピュウの頭を撫でると、ピュウは嬉しそうに目を細めた。
「そっか……ピュウ、ありがとう」
 マニュアも、嬉しそうな、心配そうな――複雑な表情でピュウを見た。
 そして、
「あ、じゃあさ、もう1度、魔族の姿になってくれない?」
「そうだよね。そのほうが話しやすいしー」
「ここの人たちにもバレないだろうしね」
 ティルやアリスも同意して頷く。
 ピュウは再び魔族へ姿を変えると、
「うーん……。この格好、変じゃない?」
 自分の姿を見ながら尋ねてくる。
「変じゃないよ! 絶対!!」
「そうそう! スゴクいいよ!」
 力説する女陣。
 4人は思っていた。
(どっちかっていうと――)
(カッコイイんだよねぇ……)
(イケメンだ……)
「おいおい。なんなんだ。さっさと行くんじゃねーのかι」
 そんな女子たちの様子を見て、話題を変えるニールだった。
 大丈夫だよ、ニール。ピュウがイケメンたって、ニールのことは――、
「は?」
「うおぃ!? 作者、おまえ、なに言おうとしてる!?」
 マニュアが反応する。イッタイナンダロウ。
「わざとらしいんだよっ!!!!」
 マニュアが切れる。
 魔王の部屋の前だというのに、先ほどの緊張はどこへやら。のん気な連中である。
「っと、そんなことより!」
「入るゾ!」
「……うん!」
 意を決して扉の前に向き直り、今度こそ、6人は取っ手に手を掛けた――。