グローリ・ワーカ   第15章:再び魔王城へ

「よーしっ! 行くぞっっ!!」
 マニュアの呪法で開いた穴へ、まず飛び込もうとしたのはストームだった。
「ちょーっっと待ったあぁ――っ!!」
 ――と、そのストームの足をがっしり掴んで引き止めた者がいた。――マニュアだ。
 ドテッ!!
 大きな音と共に思いっきりこけたストーム。
「〜〜……っってぇ――っ!! なにすんだっ! ホワイト!!」
 倒れたまま振り返ってマニュアを睨みつけるストーム。
 そうこうしているうちに、魔界へ通じる穴が消え始めた。
「オイ、ストームッ! 挟まれるぞ……」
 ニールの言うとおり。倒れたストームは体半分だけ穴をくぐっている状態で、閉じ始めた穴はそのストームの体をど真ん中から……。
「ゲッ! マジッ……!? だぁーっ! 助けろォ――!!」
 ニールがストームに手を差し出し、穴から引きずり出した。
 なんとか生還を果たしたストームは肩で息をしつつ声を上げた。
「……だあぁ〜〜〜〜〜〜っ!! ――……おい、ホワイト……。おまえ、俺になんの恨みがあって……」
「まぁ、いろいろとね……。――じゃなくて! ちょっとやりたいことがあったんだよ! それと、1番に魔界に行くのはこの私さっ!」
「おい! ……あのなぁ――」
 ストームがまたなにか文句を言おうとしたのを、アルトが遮った。
「で、やりたいことって?」
「ア、アルトォ……」
 マニュアは満足そうに笑う。
「フッフッフー。よくぞ聞いてくれましたぁっ! ホラ、私たちの顔は魔王城でもう知られまくってるでしょう? だ・か・ら! 侵入しても私たちだってバレないためのカモフラージュをしようと思って」
「うんうん。で? 具体的にはどーするの?」
 アリスが訊くと、マニュアは、今度はニヤリと怪しい笑みを浮かべてしばらく間を置いた。そして、とつぜんどこからか現れた大きな袋をガサゴソとし始めた。
 いったい、なにをやっているのだろう――、
「コレ――――――――ッ!!!!」
 マニュアは大きな声でそう言いながら、なにかを天に突きつけるように取り出した。それは――、
「ね、猫の着ぐるみぃっ!?」
 ――そう、それは猫の着ぐるみだったのだ。
「それ、どっから持ってきたの? 某理事長さんから貰ったの?」
「いや、それ、たぶん昔のサイト知らない人には通じないから。ドット絵だけなぜかアップされてますけども」
 アリス、アルト……。わかる人にしかわからないネタを……。
「そ、それをどうするの……?」
 わかりきっているであろうことをティルが尋ねた。――認めたくない気持ちもあったのかもしれない。
「それはもちろん! これを着……!!」
「「「「「「「「誰がそんなバカなことするかぁぁっ!!!!」」」」」」」」
 マニュアは言い終わらないうちに、みんなにどつかれてしまいましたとさ。ちゃんちゃん♪
「ひ、ひどいわ――っ!! せっかくみんなの分も用意したのにぃ!」
 泣き真似をしながら訴えるマニュア。
「っつーか、マジでどこで手に入れたんだよ!」
「ふっざけてるよ!」
「まさか……まさか買ったのか!? これ買う金があったなら、下取りしなくてももう少しいい装備購入できただろ!? アイテムだってもっと補充できるだろうに!」
 男共にも責められ、切ない表情のマニュアだった。
 ストームがさらに怒鳴る。
「いったい、誰がそんなモノを着るっつーんだよ!」
 ――と、
「わ、私、着てみたいナ……」
 アルトがドキドキしながら小声で言った。
「って、えぇぇぇぇ――――――!?」
 驚いてアルトの方を向くストーム。みんなも驚いてアルトを見た。
 マニュアの反応は――、
「やっぱり!? んじゃあねぇっ、コレがアルトさんの!!」
 ドサッ!
 そこに置かれたのはリスの着ぐるみだった。
「え〜? 私、ウサギの着ぐるみがいいなぁ」
 アルトが不満そうに言う。
「うーん……。ウサギはアリちゃんのなんだけど……」
 そう言いながらも、とりあえずウサギの着ぐるみを取り出した。
「アリスにウサギの着ぐるみか……。なんか似合いそーだナ……」
「そーだな……。名前的にも、なんか……」
「もちろん、アルトにも、ナー」
 主にストームとヤンが鼻の下を伸ばしてそんなことを言った。
「別にアルトにあげてもいーけど……。私、その猫の着ぐるみがいーナァ」
 なんだかんだで乗り気なアリスだった。
「って、だめ、ダメェ――――ッ!! 猫の着ぐるみは私のなの!!」
 マニュアが本気で拒否した。
 そこへ――、
「マぁー。クマの着ぐるみはー?」
 とティルまで乱入。
「うーん。えっとねぇ、最初、ニールがクマの予定だったんだけどさー。猿のが似合うかなぁーって。でもねぇ……」
「オイオイ。俺は猿かよ」
 と、またそこへ、今度はスリムが割り込み――!
「ホワイト!! 僕のは!? 僕、猿がいい!!」
「そ、そーだナァ。君は――あ、ハムスターやモルモット、ネズミとかも似合うけど、やっぱ……」
 そこへ、さらにヒナも――、
「私はー?」
「君は、鳥!!『ヒナ』に『とり』あえず『鳥』の着ぐるみを『取り』出した!! なぁーんて……」
 し――――――――ん……。
 ビュオォォォォ。
 辺りが静まり返る。
 くだらなすぎるオヤジギャグに、周囲の気温は氷点下にまで達した! 吹雪が通り過ぎていった。
「さ、さぶ――――――……っ!!」
「さ、寒い……」
「寒すぎる……」
 困ったマニュアは――、
「さ、寒さや凍てつき防止に、動物の着ぐるみ! いかがっすかー!?」
 と、とっさにごまかした……。
「「「「「「「「――――――――…………」」」」」」」」
 当然のことながら、この後マニュアはみんなにボコボコにされるのだった……。
「な、なんで――――!? 私、なにか悪いことした――っ!?」
「うるさいっ!! 問答無用っ!!」
「つーか、そもそも、てめー! こんな勝手なことで俺様を転ばして……!」
「無駄遣いするんじゃねー!」
 ちなみにマニュアは、他に犬や馬や魚なんて着ぐるみまでいっぱい用意していたそうです。