グローリ・ワーカ   第23章:全ての祈り

 人間界、コープスの町外れ。
 そこには、魔族の一家が住んでいた。
 その魔族は人間が好きで人間界へとやって来た。しかし、人間には疎まれ、町の中に住むことは許されなかった。幾度かの交渉の末、なんとか町の外れに家を構えることを許されたのだった。
 しかし、今は違う。
 町外れに住んでいるのは変わらずだが、もう人間に嫌われてはいなかった。
 今日もこうして珍しい地守月を一緒に眺めるほどの仲になった人間がいた。
「いやー酒が上手いなぁ」
 町の人間である中年の男が、その魔族の家の庭に置かれているテーブルに座って酒を飲みながら言う。
「季節外れのお月見もいいもんですねぇ」
 その男と一緒に酒を飲みながら、魔族であるメテオ・トープは言った。
「2人とも。飲みすぎはダメですよ」
 おつまみを出しながら、メテオの妻であるヘリオドールが言う。
「まぁたまにはいいじゃないか。ところで、子供たちは?」
 酒の力か、いつもより少し上機嫌でメテオは尋ねる。
「2人とももう寝ましたよ。さっきまでははしゃいで月を眺めていたけれど、眠気には勝てなかったみたい」
 メテオとヘリオドールの子供であるノア、そして中年の男の子供であるトーンは2人仲良く眠っていた。
 そのことを聞くと、メテオと男はますます上機嫌になり、
「じゃあ、もう俺たちは朝まで飲んでも問題ないな!」
「ですね! 飲みましょう飲みましょう!」
 と、更に酒を注ぎ始めた。
「もう! なんでそうなるんですか! 明日二日酔いになっても知りませんからね!」
 ヘリオドールはそう怒鳴りながらも、次の酒を運んできてくれるのだった。
 そんなことをしている時だった、空が更に明るくなったのは。
「ん? なんだぁ?」
 優しく心地よい光が降り注ぐ。
「みなさん…………」
 光を見上げ、メテオが呟いた。
「私は、みなさんのおかげで、元気にやっています。ありがとう。――あなた方の旅の無事をずっと祈っています」
 その言葉に、ヘリオドールは静かに微笑んだ。

 ペリクルムの町。
 今度は、アルトの義母であるフェルが祈っていた。
「アルト……私の娘。血は繋がっていなくても、あんたは私の娘よ……。どうか、無事でいますように……そして、いつか旅が終わったら、元気で帰ってきて。あんたの冒険談、期待してるよ」
 窓からその光を見上げ、1人祈り続けた。

 イグニスの町では、ヤンの双子の弟、ユーがベッドの上で上半身を起こしたところだった。
「さっきまで、変な夢を見ていた気がするんだよな……」
 彼はついさっきまで眠っていて、起きたばかりだった。
 どんな夢を見ていたかは思い出せない。
 ただ、とてももやもやしたものを抱えていて。今は、それがすっきりと晴れている。そんな気分だ。
「でも、すごく大切ななにかと分かり合えたような。そんな夢を見たような……」
 ユーは微笑んだ後、ふと窓の外が明るいことに気付いて外を覗いた。
「なんだこの光? 今日は地守月だから明るいのはわかってるけれど。寝る前はここまでじゃなかっただろ?」
 驚いて誰に尋ねるでもなく呟く。
 ただ、その光は眩しいけれど、同時に温かくもあって、とても大切な者を思い出させた。
「……ヤン――俺の双子の兄。……絶対に世界を救って、無事に帰ってこいよ。でないと、許さないからな」
 その大切な者の無事を、祈った。