グローリ・ワーカ   第3章:災難・その後

 けっきょく。
 ピュウが「任せて!」と言わんばかりに、1匹宿屋へ跳ねて行った。しばらくすると戻ってきて、一声鳴くと、尻尾からすべての荷物を取り出した。
「ピュウ! でかした!!」
「ピュゥ〜!」
 嬉しそうに鳴くピュウ。
「そ、その生き物はいったい……?」
 アリスが不思議そうに見る。ティルも、
「尻尾が四次元空間って――どうなってるんだろう……ι」
 呆然とピュウを見つめるのだった。

 そんないろいろな出来事のあった翌日――
「あまり表立って歩けないから、今日にでも町を出ないとねー。アリスちゃんも親から許可貰えたことだし!」
「まぁちょっと大変だったけどね……」
 さすがに年頃の女の子。危険な旅には行かせられないと、最初は反対されていたものの――アリスの必死の訴えに、両親はしぶしぶ承諾したのだった。
 そんなふうに昨日のことを話しながら、人通りの少ない道を4人と1匹は歩いていた。
 ……と。
 ドドドドドド……。
「ん? なんかこの音を聞くのは3回目くらいな気がするぞ」
「まさか……」
 そう。その『まさか』である。
 ドッシーン!!
「なんでいつも私がぶつかるの……」
 マニュア、2度目の激突。
「いってーな! ぼーっと歩いてんじゃn――って、ゲ!! 昨日のやつら!!」
「あーっ!? 盗賊団――っ!?」
「盗賊!?」
「どうやって抜け出したのぉ!?」
 各々驚いている。
 盗賊のリーダーは偉そうに笑って言った。
「ふんっ。あんなのものの10分もあれば抜け出せるぜ!!」
「いばれることか! ……って、あれ、あらら? あーっ!! もしかして!」
 とつぜん、マニュアが奇妙な声を上げた。
「どーしたの? マニュアちゃん……」
「やっぱ――ニール!!!!」
 盗賊団の中にいる1人の男を見て、その名を呼んだ。
 男は驚いた表情で、
「は? え? なんで俺のこと知ってんの?」
「おまえ、ドラコって町から引っ越したでしょ!!」
 ドラコ――ここからおよそ100kmほど離れた、隣国にある町。マニュアの故郷でもある。
 ニールと呼ばれた男はとぼけた表情で、
「え? おめー……? いたっけ??」
「忘れてるのかい!! 私のこと、変なあだ名で呼んでたくせに!」
 マニュアがそう口走る。
 ニールは少し考えた後――
「あぁ。おまえ――」
「うわー!! あだ名は言わなくていいよ!」
 慌てて言葉を遮る。
 ティルが不思議そうに――というよりは、興味津々で、
「え? あだ名? なにナニ!?」
「聞かなくていいし!」
「えー?」
「んで、誰なんだ?」
 ストームに聞かれ、仕切り直す。
「こいつは『ニール・クラベット』。昔の知り合い」
 マニュアが紹介した。
 ニールは軽く頭を下げる。
「おまえも来いよ!」
 えらく簡単に、マニュアはニールに言った。
 ニールはなんのことだかわからず、
「え? 俺も? なにしに行くんだ?」
 マニュアは満面の笑顔で天に向かって人差し指を突き立てると、
「魔王を倒しに!」
「「「「えぇぇぇぇぇ――――っ!?」」」」
 その言葉に、マニュア以外の全員が叫んだ。
「……ナゼにティルちゃん達まで騒ぐの?」
 マニュアは不思議そうな顔。
 ティルは慌てた様子で手をぱたぱたさせていた。
「聞いてないよ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ??」
「私は魔物と人間を仲良くするために旅してるだけだしぃ!」
「俺はオレンジにくっついてきただけだ!」
「私は幼馴染を探すためです」
 みんながそれぞれべつの理由を口走る。
 各々にわーわーと騒ぐものだから、さっぱり収拾がつかない。
 それをマニュアが制止した。
「まーまーまーまー……」
「おまえが変なこと言い出したんだろ!」
 ストームがツッコむ。それを無視して、
「まずはティルちゃん、考えてみてもくれ。魔王がいなくなれば、この人間と魔物の隔たりも、たしょうはなくなるとは思わないかね?」
「た、たしかに……」
 ティルはゆっくりと頷いた。
 マニュアは次にストームのほうを向き、
「ストーム。魔王を倒せば有名になれるぞ」
「俺、行くわ」
 あっさりした返事を返すストームだった。
 その返事を確認し、最後にアリスのほうを向くと、
「そして、アリスちゃん。君はお友達を探しに行くってことだけど、見つかるまでは一緒だからね。見つからなかったら、そのままついてくることになるわけ」
「うー……」
 アリスは少し迷っている様子。
 それを無視して、元気よく。
「というわけで、魔王を倒しに行くのだ!」
 ぐっ! と拳を突き上げる。
「でもさ……なんで魔王を倒しに? そりゃもちろん、魔王なんていないほうがいいけど……」
 ティルが尋ねる。
「それは――」
 言葉に詰まる。マニュアは視線をどこか宙に泳がせた。
「どうせ、かっこいーとかおもしろそーだとか、そんなだろ?」
 ストームが言う。が。
「ストームに言われたくないな、それ」
「というか……私達なんかが倒せるものなの……?」
 アリスの核心を突いた質問。
 マニュアは心に1000のダメージ!
「うぐ……っ!! そ、それは、これからレベル上げるよ!」
 その横で、
「てか、こいつら冒険者かよ」
「でも――な、なんか……面白そうだな……」
「おい! 俺達も連れてってくれよ!」
 残りの盗賊がそう言い出した。
 マニュアは驚いた顔をしてから、少し考えて――
「じゃぁさ。このトランシーバー……」
 と、ピュウの尻尾からトランシーバーを取り出した。
 この世界のトランシーバーとは、かなりの遠方でも会話ができる――いわば、携帯電話のようなものである。
 それがなぜピュウの尻尾に入っていたのかは謎である。
「これで必要なときに呼ぶから。待ってて」
 そう言い、そっと盗賊団のリーダーらしき男の手に置いた。
 男は少し不満そうな表情ながらも、
「わかった」
 と言った。
 今までと比べたら、ずいぶん素直である。
「実はな――」
 とつぜん、盗賊団の1人が言い出した。
「この人は冒険者に憧れているんだ」
「あぁ……そーゆーこと……」
 マニュアは盗賊団リーダーのとつぜんの態度の変わりように、なるほどと納得したのだった。
「あ、そうだ! 冒険の足しになるかもしれない!!」
 盗賊団リーダーはなにやらポケットをごそごそとやると、そこからなにかを取り出した。
「これ、やる」
 そう言って、マニュアの手に置かれたものは――
「これは――1000C?」
「そうだ」
「ありが――」
 ――とう。と言いかけて、はた。と気付いた。
「……お〜ま〜え〜ら〜」
「へ?」
 盗賊団リーダーは、なにがなにやら。わけがわからないといった顔。
「そのお金――宿屋で盗んだものじゃぁないだろうな?」
「あ……そういえば……」
 その言葉に、ティルは思い出した。
 彼らが夕べ宿屋で盗みを働いたさいに、そのまま放置してしまったことに――
「そうだが……。はっ! まさか!!ι」
「お〜れ〜ら〜の〜か〜ね〜」
 マニュア、怒りのあまり、男言葉になっている。
「お、『俺』? 人格変わってるよぉ!?ι」
 ほかのみんなも引いている。
「このやろー! 昨日、けっきょく泊まれなかったんだぞ!!」
「それは俺らのせいじゃねー!!ι」
 一触即発。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
 マニュアからは殺気が溢れている。
「わ、わかった! 金は返す! でも冒険の足しはナシだー!ι」
「なんだと――――!?」
 べつにいいじゃん。お金返してもらったんだし……。
 マニュアの人を殺しかねない勢いに、盗賊達はものすごい勢いで逃げていった……。