グローリ・ワーカ   第9章:彼女の思惑

「ヤン。気を付けろよ」
「ユーも家を頼む」
 そうして、ヤン兄弟の別れは済み、一行は町を後にした。

 歩きながらも、しっかりと最終確認をするようにバッグをごそごそとやるヤン。
 そのとき、ある物に目がいったマニュア。
「ヤン。なに? その玉」
 ヤンはバッグの中から、手にした玉を取り出した。
「ああ、これか? これは『月水晶』だ」
「『月水晶』」
 みんなでその玉を覗き込む。
『月水晶』という名のその玉は、不思議と光もないのにキラキラ黄金色に輝いていた。
「あぁ。綺麗だろ」
「……それ、月の代わりするやつ!?」
 マニュアが驚きの声を上げる。
 ヤンは笑顔で頷いて、
「そうだ。これはな――」
「しまって! お願い!!」
 突然、悲鳴に近い声を上げ、マニュアは月水晶から目を背けた。
「え?」
 思いがけない反応に、ヤンは戸惑っている。
「しまってよ。頼むから!」
「あ、あぁ……」
 おまえが話を振ったんだろうと思いつつも、ヤンはバッグの中へと月水晶を戻した。
「マニュアちゃん……?」
 ティルが不思議そうな、心配そうな瞳でマニュアを覗き込む。
「あ……ごめん……。大丈夫だよ」
「……それより。これはな、我が家に伝わる家宝なんだ」
 ヤンが話し出した。
「へー」
「なんでそんな物が?」
「俺、実は人間じゃないんだ。『人狼』って知ってるか? 獣人の一種なんだけど」
 獣人とは人間界に住む人間以外の種族の1つ。獣と人間の合いの子のようなものである。
 人間界には、メインで人間や動植物が存在していると説明したが、人間や動植物以外にも生存している種族は当然いて、その中の1つが獣人だった。
「ちなみに、他にも生存している種族はいるよー。この間はメインのしか説明しなかったけどねー」
 と仰るのはマニュア先生。
「俺も人間じゃねーぞ! 実はな――」
「ハイハイ。いーからいーから」
 ストームのいつも当てにならない言葉を、ティルはあっさり流したのだった。
「いや、これはマジだっつーの!」
 だが、無視をして話を進める。
「で、人狼って……」
「普段は見た目人間だけど、月が出ると狼になるんだ。俺は魔力が強いから、月があっても、大抵は人間の姿で過ごせる。もしも狼の力が必要なときにはこの月水晶を使うんだ。月水晶は月と同じ力を持っていて、これがあるだけでいつでも狼に変身ができる。さっきも言ったとおり、これは俺ん家の家宝で――」
「『オレンジの家宝?』」
「え? うちの?」
 ボケるのはマニュア。苗字が『オレンジ』のティルはおもわず反応した。
「ごめん。私、変なの想像した」
 アリスは、ミ○ンせいじんみたいな生き物が月水晶を持っている姿を想像した。
「古いよ、ミ○ンせいじん……」
「ていうか、おまえは黙ってろ――――!」
 余計なことを言うマニュアを、みんなロープで縛り上げ、挙句の果てには口にガムテープまで貼ったのだった。
「さっ、続き話して!」
 肩で息をするティル。
「あ、あぁ……。これは家宝なんだが、俺が旅に出ると聞いた親がお守り代わりに渡してくれたんだ。それに、人間のときは魔力が強いが、狼の姿のときは腕力がある。きっと、いざってときに使い分けろってことだろう」
「なるほど」
「ん゛ー! う゛……う゛うぅー!」
 何か喋りたそうなマニュアだが、みんな完全に無視だった。
「んう゛んんっ! う゛んう゛う゛うんっ!!」
 なんて言ったかは当ててみてください。正解者にも何もなし!
「ちなみに、月水晶は占いにも使えるらしい。俺はさすがにできねーけど」
「えー! やってみたーい!」
 ティルやアリス、女の子たちは目を輝かせるのだった。
「ピュウ、ピュウ、ピュ、ピュ、ピュー!」
 突然、ピュウがマニュアのシザーバッグから顔を出した。
 そして、飛び出たかと思うと、今度はヤンのバッグの中に飛び込んだのだった。
「わ!?」
 驚いたヤンはおもわずバッグを取り落とす。
 その落ちたバッグから、ピュウは器用に月水晶を転がしながら出てきた。
 そして、月水晶の横で、ピュウの体が黄金色に輝き出した。
「ピュ……ピュウゥ――――ッ!!!!」
「「「ピュウー!?」」」