グローリ・ワーカ   第9章:彼女の思惑

 そんなこんなで、なんとかヤンの家に到着。表札にはしっかりと『サンド』の名が刻まれている。
「で、誰がノックするの」
 家の前で立ち止まる。
 なんとなく気まずいというか、気恥ずかしさがあるのだった。
「ここはアリちゃんで」
 アリスに譲るマニュア。
「な、なんで!? ここはホワさんでしょー!」
 マニュアの背中を押すアリス。その弾みで、マニュアは派手にこけた。
 凄い音がして、その音にドタドタと家から人が出てくる気配がした。
「……まっ、結果オーライ?」
「オーライじゃないよっ!」
 アリスの言葉に、しこたま鼻の頭をぶつけ半泣きになりながら訴えるマニュアだった。
「なんだなんだ!?」
 家のドアを開いて、中から人が出てきた。
 その姿を確認して、マニュアは声を上げた。
「あ、ヤンーっ!」
「え?」
「えーっとね、私たち、この町を追い出されることになりまして……。もう行くからさ。ヤンも支度して――」
 そのとき。
「おーい。なーに話してんだ?」
 ヤンの後ろから、もう1人のヤンが!!
「って……え? え??」
「ヤン――――――――ッ!?」
「なんで、馬顔が2人!?」
 失礼なことを言うのはストーム。
「「誰が馬顔だ、誰が!」」
「同時に言うな――――っ!」
「ところで、なんだよ、おめーら」
 1人のヤン(らしき人)が言った。
 その意味は『誰だよ』なのか、それとも『どうしたんだよ』なのか、どちらか分からず悩むマニュアたち。
「こいつら怪しいな……」
 もう1人のヤン(らしき人)が言った。
 マニュアの横に閃光が走る!
「そうか、分かったゾ!! BY.コ○ン」
「なにを言っとんじゃ!」
「とにかく、聞いてもらおう……。美少女探偵マニュアちゃんの推理を!」
「び、『美少女探偵マニュアちゃん』……」
 ティルが凄い顔をしてマニュアを見ている。
「な、なんだよー! 悪いかよーっ! ちなみにこれは、割るイカよ」
 そう言って、マニュアはどこからかガチガチに凍ったイカを取り出して、またどこからか取り出したハンマーを使って割った。
 …………あまりにも酷いオヤジギャグだった。
「しら〜………………」
 この世は一瞬にして絶対零度の世界となった。
「なによぉ……。今のはジョークよ、じょ・お・く(はぁとまぁく)」
 ウィンクをしてみせるマニュア。
「「洗面器くれ…………」」
 真っ青な顔の男軍。
 ティルやアリスもその場に倒れていた。
「なんだそりゃ――――――――っ!!!! シツレーなっ!! と、とにかく! そう、本物のヤンは――おまえだぁっ!!」
 ビシィッ!!
「え? お、俺?」
「そう。もう1人は『こいつら怪しいな』と言った……。私たちを知っているならそんな発言はしないはずだ! ということは、そいつは偽者! その発言をしなかったおまえが本物だ――――!!」
 BGM・コ○ンの推理シーン。
 マニュアは力いっぱい指を突きつける。
「は? それを言ったのが俺だぞ」
 指を差された方が言った。
「へ……? ――と、じゃ、じゃあ、本物のヤンはおまえかぁっ!!」
 スビシィッ!!
 マニュアは指先の方向をもう1人に変えた。
「そーだよ」
「ふっ。やはり当たったか」
「「「「「外れただろ――――――――――――っ!!!!」」」」」
「ていうか、どっちか分かんねーんだったら、普通に訊けよ!」
「ま、まぁまぁまぁ。推理的にはあってるんだから」
 マニュア、苦笑い。
 ヤンはもう1人のヤンを見て言った。
「こいつは双子の弟『ユー』」
「双子だったの?」
 アリスが訊く。
「あぁ、そうなんだ。よろしく」
「よ、よろしく……」
 ユーが手を差し出して、アリスはユーと握手をした。
「ユー。言ってあっただろ? 明日旅に出るから、変なやつが迎えに来るって」
「へ、『変なやつ』とな……」
「それで、それが、今日になっちゃったんだよー。町から追い出されちゃって……」
 ティルが説明する。
 ヤンもユーも変な顔をして、
「町から追い出されたぁ?」
「うん……。魔物と話してたから、魔物の仲間みたいに思われたみたいな。だから、もう今日発つことになったよ」
 マニュアが付け加える。
「うーん。分かったよ。もう支度してあるし、すぐ出るからちょっと待ってろ」
 ヤンは家の中に戻っていった。
 ユーは、ヤンがいない間に、みんなに向かって言った。
「ヤンをお願いします」
 意外としっかりした人物だった。