転んだ。
 痛い。
 消えたい。





  せいぜい自由に生きなさい。





 君が思うほど、周りは君を見ていないからね。
 たとえば、君がどこかへ突然消えてしまったとしても、たぶんほかの人は気付かないよ。

 もし、それを「寂しい」と思うならば、それがきっと本心さ。
 まだそこに居ればいい。大丈夫。それすら誰も気にしない。そのままで構わないのさ。

 もし、それすらなんとも思わなくなったのなら、とりあえず離れてみようか。
 どうせ、気付かれないんだから、好きなようにやってやればいいのさ。

 大体、君は自意識過剰だ。
 本当に何もかもがどうでもいいのならば、それこそ周りの意見なんて聞かずに、どこかへ行けばいい。

 いつか、君が誰にも何も聞かなくなったのなら、その時は、その先を考えてもいいのかもしれないね。

 それまでは、せいぜい自由に生きなさい。


「――はい……」

 涙を浮かべたまま目を見開いて頷く。
 それに対し、こちらの返答を聴いた貴方は笑った。

 こんな街中で、こんなやり取りをしていたって、ほら、本当に誰も気にしていない。
 通り過ぎる人はただの群集の1人。
 誰かが転んだことにすら、本人以外誰も気付きやしないんだ。

 だから――そんなことをぐるぐると悩んでいる必要なんてない。真実も、自由もここにある。

 転んだところを独りで立ち上がって、その場で立ち尽くす。
 そう。私はここにいる。


 でも、いつしか気付いたのは、そう伝えてくれた貴方が消えてから。
 貴方は気付いてくれたし、私も気付いてしまった。
 あの時転んだ私に、直接手は差し伸べなくても、気付いていたじゃない。心に手を差し伸べていてくれたじゃない。
 誰かたった1人でも、そうして気付いてくれていた真実に、今更気付いたの。

 その先を考えていってしまった貴方を。

 真実ではなかった。ほかの人は気付かないなんて嘘だった。
 私は気付いてしまった。
 貴方がもう本当の自由を手に入れてしまったことを。

 それでも、私はまだここに居続ける。
 そう、本心が願うから。




 最初と後半が蛇足。
 前回みたいに暗く終わるのと短いのが嫌だったので(結局やっぱり暗いけど)付け足し。たら、なんか思ってたのとちょっと変わった。いつものことです。


――――2013/12/08 川柳えむ