神様の望んだセカイ   Chapter07:1室へ

「とはいえ――」
 もうずいぶんと時間も遅くなってきてしまったし、ベンチで少し休んだものの、疲れも溜まり、喉も渇いている。
 家まではまだまだ距離もあり、今からまた家まで歩くのもずいぶんと無理のある話だ。さらに夜は更け、足元も危ないだろう。
 ここは、ひとまずどこかの避難所を目指したほうがいいのではないか。そう都に提案しようとした。
「さすがに、今から家まで歩くのも、難しいわね……」
 そのとき、都のほうからそんなことを言い出した。さらに、こんなありがたい提案までしてくれた。
「実は、近くにいとこが一人暮らししているマンションがあるの。とりあえず、そこに一晩泊まらせてもらうのはどうかしら」
 早く家に帰りたいのはもちろんだが、現実的には難しい。もし泊めてもらえるのなら、とても助かる。が――
「そのマンションは大丈夫なのか?」
 周りの惨状を見渡して、京太は当然の疑問を投げかけた。
「たぶん……。ほら、たしかに倒壊している建物も多いけど、全部ではないでしょ? 比較的に新しい建物は残っていたりするじゃない」
 都の言うとおり、全部が全部ではないが、新しい建物は残っているものが多い。きっと耐震性の問題だろう。
 しかし、そのいとこがマンションに残っているのかも、もしかしたら避難所にいるかもわからないが――とりあえず、その提案に乗ってみることにした。
「なら、向かおう」
 そう答え、2人でそのマンションへと向かって歩き出した。
 歩き始めてから、京太は異性のクラスメートの見知らぬいとこのマンションへ、果たしてお邪魔してもいいものなのだろうか!? と疑問を抱いてしまったのだが、そこは気付かなかったことにした。

 そして、それからまた1時間ほど歩くと、とうとうそのマンションが見えてきた。
 4階建てのそのマンションは外壁に亀裂が入ったりはしているものの、周囲の建物と比べて、しっかりとそこに聳え立っていた。
 マンションの2階へと上がり、その中の1室のドアをノックする。
 町全体が停電しているため、インターホンも使えないし、部屋の電気なんて当然点いていないので、果たしてそのいとこが部屋に無事いるのかもわからない。
 ――どうかいますように。不安に思いながら、中からの反応を待っていると――
「はい」
 短い返事の後に、カチャリとドアが開かれた。
 20代半ばくらいだろうか? 優しそうな顔立ちをした男がそこに立っていた。
「修兄」
 都がそう男を呼んだ。
「都!」
 修兄と呼ばれた男が、顔を綻ばせて彼女の名を呼ぶ。2人はお互いの無事を抱き合って喜んだ。
「都、無事だったのか! よかった!」
「えぇ。修兄も無事でよかったわ。……ところで、家に帰れそうにないから、一晩泊めてほしいのだけど」
「あぁ。こんな状況じゃ帰れないだろう。しばらくはうちにいなさい」
「あと、実は私だけじゃなくて――こっちの、クラスメートの片井 京太君も泊めてほしいのだけれど」
 都が京太を紹介する。
 男は訝しげな表情を浮かべた。
「片井 京太?」
 京太は軽く頭を下げた。
 男は京太を睨むような目でじっと見てくる。
 無理もない。彼からすればどこの馬の骨ともわからない男を、いきなり一晩泊めてくれだなんて。しかも、先ほどの様子を見る限り、きっと彼女のことを妹のようにでもかわいがっているのだろう。そんな彼女が連れてきた男だ。気に入るわけがない。
「…………まぁ、とりあえず、入りなさい」
「あ、よろしくお願いします……」
 男に促されるまま、2人は彼の部屋へと上がった。