この世界と平行線上に幾つも幾つもまた別の世界があって、1つの選択肢によってまた幾つも新しい平行世界が出来ていく。





  緩やかな地獄と平行世界





『――では、次のニュースです。昨日――で起きた――……』

 くだらない出来事を垂れ流すテレビを切った。

「まぁた税金上がるってさー……」

 誰に言うでもなく、1人呟く。
 ワーキングプア。ギリギリの生活をしている人間にとっては、辛い話。

「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざりじっと手を見る……」

 どこかの有名な言葉を口にして、盛大な溜息を吐いた。

 そろそろ限界かぁー……。
 いい加減、転職しようかな?

 そんなことを考えながら、パソコンを開いて転職サイトなんて覗いてみる。

 その時、アパートの一室であるこの家の、玄関の扉の方からガタンと音がした。

 あぁ、ポストに何か届いたな。

 見てみると、それは選挙のお知らせ。
 そういえば、そうだった。選挙の時期だ。おかげで最近外がやたらに騒がしい。どこのお偉い人達も、必死だ。

 ――くっ……だらねぇ……。

 封筒を開けることもせずに、ゴミ箱へと投げ捨てた。

 こんな屑みたいな小さな人間の1票で何が変わる?
 大体、投票したい先なんてありゃしない。もし、税金を本当に上げないでいてくれるところがあるのであれば、そこがいいかな程度。大体、公約なんてのも守られやしないし。誰も彼も皆、自分の利益しか考えていない。どれでも、誰に入れても一緒だ。変わらない。
 本当は、そんな考えでは駄目だと理解していても、やはり行く気にはなれない。
 弱者は強者に従うだけだ。

「その強者を選ぶ権利も、到底自分にあるとは思えない」

 くだらないことに囚われて、動けない。
 結局1人で、地獄の底を這いずり回る。

『働けど働けどなお我が暮らし楽にならざりじっと手を見る』

 何の為に生きているのか、働いて、稼いで、食べて、寝て、起きて、その繰り返しで。
 そんな大して痛くも苦しくもないだろう、緩やかな地獄の底にいる弱者なのだ。
 もしかしたら、その辺に落ちている屑の方が役に立つこともあるのかもしれない。

 ――どこで間違えた? どうしてこんな風に生きているのだろう。

 まるでゲームのように。どこかで現れた選択肢で、BAD ENDのルートを選んでしまったのではないか。
 だとしたら、その中の正しい選択肢を選んだ自分が、どこか別の世界に存在していて、そこの自分は幸せにやっていたりするのだろうか。

 それならば、それでいい。もし、どこか別の世界だとしても、幸せに笑っている自分が存在していたとしたら。こんなに幸福なことはない。
 今、ここで幸せになれなかった自分の分も、幸せでいてくれれば。

 けれど、それならば、今ここにいる自分以上に不幸せな自分も、別の世界に存在していることもあるのだろうか?

 最近購入したロープを、まさに今、首にかけている自分が存在する世界も――



 涙を流しながら、自分を哀れんだ。
 今よりもっと地獄にいる自分を。

 そうしてまだ、自分は緩やかな地獄で生きている。




 フィクションです。
 そして選挙行きましょう。1人も集まればたくさんになる。
 え、自分? どこに投票するか悩み過ぎて迷い中……(ぉぃ


――――2012/12/15 川柳えむ