グローリ・ワーカ   第1章:出会い

「じゃ、宿に戻りますかー」
「はい」
 武器と防具に関しては、2人とも今のままでじゅうぶんということで、特になにも買わないことに決めた。
 2人が旅館へ戻る道を歩いていると――
 ドドドドドド……。
 なにやら聞き覚えのある音――また地響きがする。土煙が向こうのほうで立ち上がっている。
 土煙の中心にいる影は、どうやらこっちにまっすぐ向かってきているようだが――
「……って、ぶつかる――――!!!! こっち来んなー!!」
 ドォン!!!!
 ものすごい音を立てて、マニュアはそれとぶつかった。
「こ、この町の人って……なんでこんななの……」
 ぱたり。
 マニュアはぶっ倒れた。
「いってー! おっと、ごめん」
 ぶつかってきたそれは軽く尻餅をついたくらいで、まったく平気そうだった。
「え、えっと、あなたは誰……?」
 倒れたマニュアのかわりに、ティルが訊いた。
 訊かれたそれは、にぃっと元気よく笑って、大きな声で答えた。
「俺は『ストーム・カーキー』!! 13歳、盗賊だ!」
 それはストームというらしい。いかにも盗賊といった身軽そうな格好で、屈託のない顔をした少年だ。
 ストームは大きな瞳で2人を見た。
「俺、『ティル』っていう有名人が来てるって聞いたから探しに来たんだぜぇ。おまえら、知らねぇ?」
「え? ティル……ですか? 私、『ティル・オレンジ』。私も13歳の魔物使いですけど……」
「あぁ! おまえがティルか!!」
 ティルの自己紹介に、ストームは嬉しそうに飛びつく。
 はっと気付いたマニュアは体勢を立て直して叫んだ。
「ちょっと待てーぃ!! 私のことは放置か!?『マニュア・ホワイト』! 私も13歳、吟遊詩人だぞ!」
 だが、ストームは聞いていない。
「なんか運命の出会いって感じー」
「聞けよ!!!!」
「あ、あの……」
「こんな簡単に出会えるなんてな。俺に不可能はない」
 妙に自信満々でストームは言う。変わったヤツのようだ。
 マニュアとティルは引いている。
「だから仲間に入れろ。そのために来たんだから」
「――――は?」
 ストームの思いがけないセリフに、おもわず2人は固まった。
「ティルを探しに来たって言っただろ」
 メチャクチャを言うストーム。
 マニュアとティルは顔を見合わせた。
「――と言われましても。私達、まだ――ねぇ」
「あ、う、うん……」
「まだ、正式な仲間ってわけじゃ……」
「じゃ、俺、そのティル――オレンジってやつんとこ、ついてくから」
 ストームがさらっと言う。
 マニュアも、
「あ、いいなぁ。私もオレンジさんと一緒に行きたい」
「……じゃあ、みんなで一緒に行きましょう」
 ティルが言った。
 マニュアはおもわず声を上げた。
「え、え――!? ……こいつも?」
「はい」
「おっしゃ!!」
 複雑そうな表情のマニュア。笑顔のティル。ガッツポーズをするストーム。
「私はイヤだー! 反対だー」
「じゃ、おまえは来んなよ」
「なんだとぉー!? この、ストーム!」
「なんかちょっと楽しそうです」
 喧々囂々。
「っつーことで、おまえら、どこに泊まってるわけ!?」
「えーと……」
 マニュアを取り残し、話は進んでいく。
「ストーム! オレンジさんもぉ!!」

「じゃ、俺、いったん家に帰るわ! 明日の朝、旅館まで迎えに行くからな!」
「そんなぁー!!」
 マニュアの叫び声空しく。
 ストームは来たときとは裏腹に、爽やかに去っていった。


 そして、翌朝。
 ストームはしっかりと旅館まで迎えに来た。
「さ、行こうぜ!」
「やっぱりこいつも行くのぉ?」
「じゃ、行きましょう。ホワイトさんも」
「ピュウー♪」
「やっぱ……イヤだー!! なんかストーム苦手なタイプだっ!」
 駄々をこねるマニュアだが、2人に引きずられるように、ティロの町を後にしたのだった……。
「いーやーだ――――――――ッ!!」

 凸凹なパーティーの旅は、今、始まったばかり――