グローリ・ワーカ   第22章:偶然じゃなくて必然

「前はアルトさん助けて、ミリアと戦って。で、すぐ四天王と魔王と戦ったんだ。長い、とても長い戦いだった……。そして、四天王と戦っている間に、魔王がこの合体の呪法を使って。それでね……」
 マニュアはふぅと小さく溜め息をついてから、続けた。
「――だから、みんなと会ったのも、偶然ってわけじゃなかったんだ。前の世で会ってたから。私たちが勇者で、グローリ・ワーカだってこともわかってたから……」
「じゃあ、俺たちを嵌めたってことかよ!?」
 マニュアの言葉に、ストームが怒って言う。
 マニュアは、はっと顔を上げた。そして、慌てて否定を始める。
「い、いや、嵌めたってワケじゃ……!」
「だって、俺たちが殺られるってわかってるってことだろ!?」
「や、殺られるって……!」
「そうなの、ホワさん……!?」
 アリスも不審そうに視線を向ける。
「ち、違うの! それに、今回は前と変わってるし……!」
 必死に弁解するが、冷たい視線が降り注ぐ。
 責められるマニュアを何も言わずに見ていたティルが、ゆっくりと口を開いた。
「そっか……。だからなんだね。あの時――魔王城に来る前、マーが1人で行くって言ってたのは……」
「そういえばそんなこと言ってたね、ホワさん。まったくもう。まーたそんなこと言ってさ。」
 アリス、今度は呆れたようにそう言った。
「またって――いや、他にもそんなこと言ったことあったっけ!?」
 マニュアが慌ててそう言うと、アリスは真顔で、
「覚えてないけど、そんなこと言いそうなイメージが」
「どんなイメージが!?」
「無駄に抱え込んで悪化させそうなイメージだな」
「まぁ、そうだな」
 ヤンまでそんなことを言い出し、それにニールも頷いた。
「えぇぇぇぇ!? な、なんか、すいません……!?」
「えーっと、まぁ、だから――抱え込むなってことじゃね?」
 涙目で謝るマニュアに、ニールがそんなことを言い出した。
「へ?」
 思ってもいなかった言葉に、思わずまぬけな声を漏らす。
「だから! 抱え込まずにもっと早くからいろいろ言えばいいだろ!」
 そう怒鳴ると、ニールはそっぽを向いてしまった。耳が赤く見えるのはきっと気のせいではな――、
「余計なナレーション入れるな作者ああああ――!!!!」
 真っ赤なニール。おぉ怖い怖い。
 マニュアおめでとうフラグおめでとう。
「え!?」
「なんもねーよっ!!!!」
「――えっと、だからね。あの時、巻き込めないって言ってたけど、それについてくって言ったのは私たちでしょ? それは私たちの――少なくとも、私の意志であって、マーの意志じゃないよ」
 ティルが優しく微笑んだ。
「ティーちゃん……」
「それに、同じ未来が来るなんて思ってないしね。未来は変えられると思うよ」
「――!」
 マニュアは、マリアが言っていた言葉を思い出した。

「未来はなんにでも変えられる。――未来は、無限にあるんです」

 そう、あの言葉があったから、ここまで来たんだ。未来を変えるために。
「うん……。うん……っ!」
「そうですよー。私も、そう信じてるから」
「まぁ、あの時帰らなかったのは私たちだしね。ここまで来て、ほっておけるわけないでしょ。そのこと言わなかったからって、別にホワさんのせいじゃない。私たちが来たくて来たんだから。勘違いしないでよね!」
 アルトに、なぜかツンデレ的なアリスもそう言ってくれる。
「アルトさん、アリちゃん……」
「偶然ってわけじゃなかったんだろ」
 ストームが言う。
「へ? う、うん」
 言葉の意図がわからず、「?」を浮かべてストームを見るマニュア。
「あぁ、そうだな。偶然じゃなくて、必然」
 ヤンがそれに続けて、そう言った。
「!」
「そうだ! それに俺たち、勇者! グローリ・ワーカだしな!!」
 今度は目を輝かせてそう言い、仰け反って大笑いを始めたストームだった。
(はっ! よく考えたら最初に文句言ってきたのストームのくせに)
 思わず不満を浮かべるマニュア。
(でも、ま――)
 みんなを見渡して、飛び切りの笑顔を浮かべた。
「ありがとう!」
「――ってか」
「ほえ?」
 マニュアは、ニールがなにかを呟いたことに気付いた。
「な、なに……。ニール……?」
 さっきのフラグを期待してか!? マニュアが尋ねる。
 少し間があり、ニールは口を開いた。
「――1人で目立ってんじゃね――――――――――――っ!!!!」
「うはあぁぁぁぁ!?」
 マニュアはニールの勢いに数メートル吹き飛ばされた。
「え? えぇっ!?」
「だから、そうやって最終的に抱えきれなくなったりして注目集めるはめになるんだから、1人目立つようなマネしてんじゃねー! 俺たちの影が薄くなるじゃねーか!」
 抱え込むなってそういう意味だったのか!? 赤くなったり怖い顔したのは怒っていたからだったのか!?
 どうやらフラグでもなんでもなかった。
「え!? せ、せつねぇ!!!!」
 涙目のマニュアでしたとさ。
「いえ、もしかしたら、照れ隠しって可能性も――!」
 アルトがそう言うが、果たして真実は?
「つーか、たしかにニーの言うとおりじゃねーか! いつも出張ってんじゃねーって!」
 ストームも怒り出す。
 いや、2人だけではなく、
「私ももっと目立たせるべき!」
「アリちゃんまで!?」
「私も! もっと目立ちたいよぉー!」
「あ、えっと、じゃあ私も?」
「ティーちゃん! アルトさんも!?」
「さっきの話に僕たち全く出てこなかったんだから、僕ももっと目立つよ!」
「私もー!」
「スーちゃんにヒーちゃんまで!」
「そうだ! 主役は俺!」
「「「「「「「「それは違う」」」」」」」」
 ヤンの言葉に、みんな声を揃えて否定するのだった。
「なんで俺ばっかり!?」
「てぇか、なんか目が怖いっすよ。みんな……」
 怯えるマニュア。
 なんだ。リンチか!? 加わろうか!?
「加わるなぁ!」
 ぎゃーぎゃーわーわー。
 魔王たちを前にしているはずなのに、なんだか余裕のあるみんなだった。