グローリ・ワーカ   第22章:偶然じゃなくて必然

『随分と余裕があるな……』
 その2つの声がハモっているような声に、みんなは固まった。
 ……完っっ璧にバトルを忘れていた。
「うへぇぇぇぇ!?」
 妙な叫び声を上げて振り返るアルト。
「ま、魔王ォォ!? プラス、ホワさんの義父ぃぃ!?」
「が、合体版!?」
 その声は、魔王と義父が合体した生物のものだった。
『おまえたちはこの地守月が自分たちの味方だと思っているようだが――それは大きな間違いだ。こちらだって、この時を待っていた。月というのは不思議なものでな。月の光は我々の呪力を高めてくれるのだ。なぁ、ミリア? 魔族の血が疼いてこないか?』
 魔王と義父が合体した生物――略して魔父にそう言われ、ぐっと言葉を詰まらせるマニュア。
「って、なにその略、微妙!」
 え? 別になんでもいいじゃないか……。
『そして今、地守月とこの合体の呪法で私たちは絶大な力を手に入れた。さぁ、どうする?』
 魔父がにやりと笑った。
「でもよ。絶大な力を手に入れたったって、1体消えたようなもんだからな。俺たち、楽になったんじゃないのか?」
 ヤンも同じようににやりと笑ってそう返した。
『果たしてそうかな!? 戦ってみればわかることだ!』
 魔父はバッと腕を上げ、1番近くにいたアリスに向かって呪法を放った!
『ディサピアランス ディジーズ!』
「えぇっ!? キャアァ――――――ッ!!!!」
「アリスッ! 風を司るシルフよ。風の存在を此処に認め、力を我が前に示せ! ウィンド・セーブ!!」
 ヴォン……!
 慌てたヤンがアリスの前に飛び出した。そして、風の魔法で盾のようなものを作り出し、魔父の攻撃を防いだ。
『チッ……!』
「はあぁぁ……。ありがとー、サンド」
「イヤ、気にすんな」
 アリスの言葉に、はにかんで笑うヤン。
「……なんか、いい感じですねぇ」
「そうだねぇ……」
「おぉ! らぶらぶじゃないですか、お2人サン!! さり気に呼び捨てにしてたし……」
 みんなが冷やかす。
「俺は許さねーゾ!」
「み、みんなー! 違うってばー!!」
 わあわあわあ。
『……オーイ。バトルはどーなったんだ……? ……私は馬鹿にされているのか?』
 緊張感のない奴らに、魔父も狼狽気味だ。
 ――しかし、決して悪気はナイと思いマスヨ?
『……棒読みだぞ』
「あ、そうだ! バトルしないと!」
 やっと思い出したか。マニュアは振り向くと同時に、シザーバッグから彼女の武器をさっと取り出した。
「ん? マーの武器って…………え?」
「な、なんか……」
「ヤな予感が……」
「ちょっと待てええええええ――――――――――――ッ!!!!!!!!」
 仲間の叫びも聞こえず。
「久々の――……〓〓〓〓〓〓〓〓〜〜〜〜〜〜!!!!」
「「「「「「「「「うわ――――――――――――――――っっっ!!!!」」」」」」」」」
 マニュアの武器――そう、それは、マイク……。
 マニュアの音痴な歌という強烈な怪音波によって、みんな憶千万のダメージを受け、瀕死の重体に陥ってしまった。
 もしかしたら、魔王なんかよりも有害なのかもしれない。呪法なんてなくても十分強い。ある意味、この歌声で世界を支配できでしまうような。
「ちょっとそれどういう意味ー!?」