グローリ・ワーカ 第24章:そしてこれから
ガバッ!!
マニュアは枕元の時計を覗くと、布団から大きく飛び出した。
「もう10時過ぎてる!?」
あれ? もしかして、今までのは夢――?
「夢オチにすんな。夢じゃないよ!」
――とりあえず、辺りを見回してみる。ほかのみんなを見ると、まだぐっすり眠っていた。とはいえ女子部屋なので、同室にいる女子の様子しか分からないのだが。
「ま、まだ眠ってても仕方ないか。今までの疲れがいろいろ溜まってるんだろうし……」
魔父を倒してから4日経つが、まだ疲れは癒え切っていないようで。生活リズムは戻っていなかった。
それでも初日よりはマシなものだ。長い戦いの後で、更に祭りで朝まで騒ぎ、そしてそれから宿を借りて寝付いて――次に目を覚ましたのはもう夜中だったのだから。
(しかし、そろそろ――)
盛大に騒いだ祭りももう今日でおしまい。
明日からはまた、いつもの日常が始まる。いや、少し違う――か。
もう、倒すべき敵などいない。
マニュアは考えていた。
「…………これから、どうするかな……」
とても小さな声で呟く。
旅の目的はもう達成してしまったのだ。
「…………。みんなにも、聞いてみないとね」
――これからのことを。
それからおよそ5時間ほど経った午後3時。
やっと全員起きてきて、広場の近くにあったカフェのテラス席に集まって座った。
「みんなに聞いておきたいことがあるんだけど――……」
ドリンクを飲み、少し雑談を交えた後、マニュアがそう切り出した。
「なんだよ、改まって……」
なんだかいつもと様子の違うマニュアに、ニールは少し気後れする。
「――みんな、これからどうする気?」
「「「「「「え?」」」」」」
そういえば、そんなこと、なにも考えていなかった。
マニュアの言葉に、仲間たちもようやくそのことについて考え始めた。
そして、最初にその質問に答えたのは、ティルだった。
「私――最初の目的を、達成させないと……」
「え? それって――」
「……人間と魔物の共存――だっけ?」
マニュアが言うと、ティルは小さく頷いた。
「魔王は倒したけど、魔物がいなくなったわけじゃないから。これからでも、魔物と仲良くしてほしいなって――」
「でも、ま、それも遠い未来じゃなさそうだぜ」
ニールがそう言って、顎をクイッと突き出した。
「え?」
みんながそっちの方へと目をやる。
視線の先――少しずつ片され始めた広場のステージ上には、驚くべき光景が広がっていた。
「に、人間と魔物が……」
「仲良く踊ってる……だと……!?」
そう。人間と魔物が楽しそうに踊っていたのだ。
とはいえ、人間の方はベロンベロンに酔っ払っていて、相手が魔物だということに気付いていないようではあるが。
周りの人間も気付いているのかいないのか、楽しそうに歓声を上げていた。中には手拍子までしている人もいる。
「な?」
ニールがにっと笑うと、ティルも嬉しそうに笑った。
「うん!」
「――そういや、俺。最初ティルについてくって旅を始めたんだっけ」
突然、ストームがそんなことを言い出した。
そして、
「俺も、一緒についてくかな」
「え……?」
ストームの思いがけない言葉に、ティルが頬を赤らめる。
……なんだか、ラブラブな風が2人の間を通り抜けた。
そして、アルトは――
「い、今、ティーちゃんを呼び捨てにしましたわよ!? え? 前からそーでしたっけ!? というか、ティーちゃんについてくとか言ってるし……嗚呼ぁ阿鼻叫喚……」
ぶつぶつ小声で……怖かった。
「それより、アルト。ルクスの町に帰るわよ。――まぁ、帰ってこなくてもいいから、せめて元気な顔をおじさんやおばさんに見せてあげなさいよ」
「あ、はい……」
アリスの言葉に頷いたものの、元気のないアルトだった。
ヤンも、その言葉に、
「俺も自分の町に帰るかな。半ば無理やり連れてこられたわけだしな」
と、そんなことを言った。苦笑いを浮かべるマニュア。
ニールも――
「そーだな……。俺も、帰るか」
「……そっか」
「あいつらも心配だしな」
「あいつらって――盗賊団の仲間?」
「あー……まぁ……」
「そういうマーはどうするの?」
ティルに訊かれ、マニュアは一瞬戸惑う。
「え? 私?」
しかし、決意した表情で、
「……私ね、償いをしたいの。魔王やお義父さんが――人間にしてきたことの償いを……。私、いろんな町を旅して、多くの人を助けたいと思ってる」
そう言って、にこっと微笑んだ。
「それにね、シリアと約束したのもあるから。人間界で、魔界や魔族に対する想いを変えさせるって。魔族の私が人間の手助けをすれば、少しはよく思ってくれないかなーなんて。甘いかなぁ?」
そう言って笑うマニュアに、
「まぁ、ホワさんらしくていいんじゃないの?」
と、褒めているんだか貶しているんだか分からない言葉で、アリスが返した。
「う゛。なんか、ちょっとひどい」
「――そっかぁ。みんな、バラバラなんだねー……」
「うん……」
ティルの言葉に、みんな押し黙ってしまう。
みんなにも事情があるんだから、いつまでも一緒は難しい……。それは、なんとなく分かっていたことなのに、やっぱり、寂しい。
静かな時間が過ぎていく。
――と、その時。
「ピュウピュウ!!」
「え!?」
とても聞き覚えのある鳴き声がした。
その声の方を振り返ると、そこには――
「ピュウ!」
「ピュウ~♪」
そう。ピュウの姿があった。
マニュアは嬉しそうにピュウを抱き締め、頬を摺り寄せた。
「もー! 今までどこ行ってたのピュウ~! おかえり~!」
「ピュピュ~」
その様子に、おもわず和む。
「ピュウじゃないのか?」
「へ?」
ヤンの突然の言葉に、みんな頭の上に「?」を浮かべる。
「空に現れた神様のことだよ」
「「「「「「あ!」」」」」」
魔父を倒した後、そのことを伝えに人間界に現れたという神様。
神様と同等の力を持つというピュウなら、不可能ではないことだ。
「ピュウ、そうなの?」
「ピュウ~」
分かりにくいが、ドヤ顔をするピュウ。
マニュアはピュウの頭を優しく撫でた。
「あーそれで今まで……って、帰ってくるのちょっと遅いよー。もっと早く帰ってこれたでしょー」
「ピュピュピュウ☆」
訳:てへぺろ☆
それにしても、さっきまでの少し沈んだ空気が、あっという間にどこかへと消えてしまった。
「ま、とりあえず。さっきの話はこれでまとまっただろ……」
ニールが小さな声でそう言って、立ち上がった。
「そうだ! それより、今日も1日遊ぼーゼ! 今日の夜には片付けちまうって、昨日言ってただろ? もうあんま時間ねーけど、最後まで楽しもうぜ!」
「そうだね。旅立つのは明日にしてさ!」
ストームの言葉に、アリスも頷いた。
みんな立ち上がると、勇者グローリ・ワーカのパーティー最後の日をめいっぱい楽しんだ。
ガバッ!!
マニュアは枕元の時計を覗くと、布団から大きく飛び出した。
「もう10時過ぎてる!?」
あれ? もしかして、今までのは夢――?
「夢オチにすんな。夢じゃないよ!」
――とりあえず、辺りを見回してみる。ほかのみんなを見ると、まだぐっすり眠っていた。とはいえ女子部屋なので、同室にいる女子の様子しか分からないのだが。
「ま、まだ眠ってても仕方ないか。今までの疲れがいろいろ溜まってるんだろうし……」
魔父を倒してから4日経つが、まだ疲れは癒え切っていないようで。生活リズムは戻っていなかった。
それでも初日よりはマシなものだ。長い戦いの後で、更に祭りで朝まで騒ぎ、そしてそれから宿を借りて寝付いて――次に目を覚ましたのはもう夜中だったのだから。
(しかし、そろそろ――)
盛大に騒いだ祭りももう今日でおしまい。
明日からはまた、いつもの日常が始まる。いや、少し違う――か。
もう、倒すべき敵などいない。
マニュアは考えていた。
「…………これから、どうするかな……」
とても小さな声で呟く。
旅の目的はもう達成してしまったのだ。
「…………。みんなにも、聞いてみないとね」
――これからのことを。
それからおよそ5時間ほど経った午後3時。
やっと全員起きてきて、広場の近くにあったカフェのテラス席に集まって座った。
「みんなに聞いておきたいことがあるんだけど――……」
ドリンクを飲み、少し雑談を交えた後、マニュアがそう切り出した。
「なんだよ、改まって……」
なんだかいつもと様子の違うマニュアに、ニールは少し気後れする。
「――みんな、これからどうする気?」
「「「「「「え?」」」」」」
そういえば、そんなこと、なにも考えていなかった。
マニュアの言葉に、仲間たちもようやくそのことについて考え始めた。
そして、最初にその質問に答えたのは、ティルだった。
「私――最初の目的を、達成させないと……」
「え? それって――」
「……人間と魔物の共存――だっけ?」
マニュアが言うと、ティルは小さく頷いた。
「魔王は倒したけど、魔物がいなくなったわけじゃないから。これからでも、魔物と仲良くしてほしいなって――」
「でも、ま、それも遠い未来じゃなさそうだぜ」
ニールがそう言って、顎をクイッと突き出した。
「え?」
みんながそっちの方へと目をやる。
視線の先――少しずつ片され始めた広場のステージ上には、驚くべき光景が広がっていた。
「に、人間と魔物が……」
「仲良く踊ってる……だと……!?」
そう。人間と魔物が楽しそうに踊っていたのだ。
とはいえ、人間の方はベロンベロンに酔っ払っていて、相手が魔物だということに気付いていないようではあるが。
周りの人間も気付いているのかいないのか、楽しそうに歓声を上げていた。中には手拍子までしている人もいる。
「な?」
ニールがにっと笑うと、ティルも嬉しそうに笑った。
「うん!」
「――そういや、俺。最初ティルについてくって旅を始めたんだっけ」
突然、ストームがそんなことを言い出した。
そして、
「俺も、一緒についてくかな」
「え……?」
ストームの思いがけない言葉に、ティルが頬を赤らめる。
……なんだか、ラブラブな風が2人の間を通り抜けた。
そして、アルトは――
「い、今、ティーちゃんを呼び捨てにしましたわよ!? え? 前からそーでしたっけ!? というか、ティーちゃんについてくとか言ってるし……嗚呼ぁ阿鼻叫喚……」
ぶつぶつ小声で……怖かった。
「それより、アルト。ルクスの町に帰るわよ。――まぁ、帰ってこなくてもいいから、せめて元気な顔をおじさんやおばさんに見せてあげなさいよ」
「あ、はい……」
アリスの言葉に頷いたものの、元気のないアルトだった。
ヤンも、その言葉に、
「俺も自分の町に帰るかな。半ば無理やり連れてこられたわけだしな」
と、そんなことを言った。苦笑いを浮かべるマニュア。
ニールも――
「そーだな……。俺も、帰るか」
「……そっか」
「あいつらも心配だしな」
「あいつらって――盗賊団の仲間?」
「あー……まぁ……」
「そういうマーはどうするの?」
ティルに訊かれ、マニュアは一瞬戸惑う。
「え? 私?」
しかし、決意した表情で、
「……私ね、償いをしたいの。魔王やお義父さんが――人間にしてきたことの償いを……。私、いろんな町を旅して、多くの人を助けたいと思ってる」
そう言って、にこっと微笑んだ。
「それにね、シリアと約束したのもあるから。人間界で、魔界や魔族に対する想いを変えさせるって。魔族の私が人間の手助けをすれば、少しはよく思ってくれないかなーなんて。甘いかなぁ?」
そう言って笑うマニュアに、
「まぁ、ホワさんらしくていいんじゃないの?」
と、褒めているんだか貶しているんだか分からない言葉で、アリスが返した。
「う゛。なんか、ちょっとひどい」
「――そっかぁ。みんな、バラバラなんだねー……」
「うん……」
ティルの言葉に、みんな押し黙ってしまう。
みんなにも事情があるんだから、いつまでも一緒は難しい……。それは、なんとなく分かっていたことなのに、やっぱり、寂しい。
静かな時間が過ぎていく。
――と、その時。
「ピュウピュウ!!」
「え!?」
とても聞き覚えのある鳴き声がした。
その声の方を振り返ると、そこには――
「ピュウ!」
「ピュウ~♪」
そう。ピュウの姿があった。
マニュアは嬉しそうにピュウを抱き締め、頬を摺り寄せた。
「もー! 今までどこ行ってたのピュウ~! おかえり~!」
「ピュピュ~」
その様子に、おもわず和む。
「ピュウじゃないのか?」
「へ?」
ヤンの突然の言葉に、みんな頭の上に「?」を浮かべる。
「空に現れた神様のことだよ」
「「「「「「あ!」」」」」」
魔父を倒した後、そのことを伝えに人間界に現れたという神様。
神様と同等の力を持つというピュウなら、不可能ではないことだ。
「ピュウ、そうなの?」
「ピュウ~」
分かりにくいが、ドヤ顔をするピュウ。
マニュアはピュウの頭を優しく撫でた。
「あーそれで今まで……って、帰ってくるのちょっと遅いよー。もっと早く帰ってこれたでしょー」
「ピュピュピュウ☆」
訳:てへぺろ☆
それにしても、さっきまでの少し沈んだ空気が、あっという間にどこかへと消えてしまった。
「ま、とりあえず。さっきの話はこれでまとまっただろ……」
ニールが小さな声でそう言って、立ち上がった。
「そうだ! それより、今日も1日遊ぼーゼ! 今日の夜には片付けちまうって、昨日言ってただろ? もうあんま時間ねーけど、最後まで楽しもうぜ!」
「そうだね。旅立つのは明日にしてさ!」
ストームの言葉に、アリスも頷いた。
みんな立ち上がると、勇者グローリ・ワーカのパーティー最後の日をめいっぱい楽しんだ。